一茶両吟 丗漆ノ巻 (37)
【表六句】
秋 行く秋を ぶらりと大の 男かな
秋の月 三笠の山に まつ月あかり
秋 大橋や やりもちどのの 迹の雁
雑 夕焼けつくは 紅葉大名
夏 暮れゆくや 雁とけぶりと 膝がしら
夏 星みる歌に 薪と燃えて
【裏十二句】
雑 はつ時雨 俳諧流布の 世なりけり
恋 忘れた歌の しとどふたたび
恋 ぼた餅の 来べき空かな 初時雨
雑 頬ばる小豆の 甘き先まで
雑 蕗の葉に 酒飯くるむ 時雨かな
雑 悲しきものは 河童の弁当
冬の月 枯れ枯れの 野辺に恋する 蝗かな
冬 寒月まくら 霜に温まれ
雑 ある時は ことりともせぬ 千鳥かな
雑 ご都合となく 世わたり上手
花 かつしかや 鷺が番する 土大根
春 菜の花盗む 春の猿くば
【名残表 十二句】
春 寝筵に さつと時雨の 明かりかな
雑 とどろく春は さう遠からず
雑 ちる木の葉 渡世念仏 通りけり
雑 かざして脅す 虫食い経典
冬 初時雨 土手をもやして 遊びけり
雑 終わつた秋の 夢を聞かせて
秋 秋の雨 小さき角力 通りけり
恋 われ守る背は 強くなりさり
恋 はつ雪の ひっつき易い 皺手かな
雑 冷たき爪の お眠り誘ふ
秋の月 吉原の うしろ見よとや ちる木の葉
秋 満月に浮く 夢のあとさき
【名残裏 六句】
冬 はつ雪が 降るとや腹の 虫が鳴る
雑 森の実つくし 眠れ春の仔
雑 雪ちるや 七十顔の 夜そば売り
雑 夜毎泣かすは 誰の笛ぞや
花 袂へも 飛び入るばかり 千鳥かな
春 風さらはれて 春は散りぬる
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
