一茶両吟 交漆ノ巻 (67)
【表六句】
春 陽炎や 馬糞も銭に なりにけり
春 鋤きこむ土に 我が身も埋めよ
春 陽炎や 敷居でつぶす 髪虱
雑 にげる姿が 成仏来世
秋の月 嗅ひでみて よしにする也 猫の恋
秋 我が背ふられて 芒かく月よ
【裏十二句】
冬 菴の餅 雪より先に 消えにけり
恋 網の上にも 一夜のふくらみ
恋 ぬり立ての 看板餅や 東風が吹く
雑 呼び込まれては 財布身ぐるみ
雑 紅梅に 干しておくなり 洗い猫
雑 新人げいこの 明日は三味線
春 鶏の 仲間割れして 日永かな
春の月 朧月夜に 葱と煮るらめ
雑 御地蔵の 手に据ゑ給ふ 蛙かな
雑 母よ石にと ならまさじけろ
花 越後衆は 歌で出代はる こざとかな
春 末の桜の みち遠けれど
【名残表 十二句】
春 大井川 なりしづまりて 鳴く雲雀
雑 石を握りて まつ捨て子かな
恋 鼻先に 飯粒つけて 猫の恋
雑 夫婦茶碗と いわし一匹
冬 としよれば 犬も嗅がぬぞ 初袷
冬 虫食ふ数だけ 自慢たらたら
雑 雀子が ざくざく浴びる 甘茶かな
恋 花の祭りの 欲しかる色は
恋 青嵐 吹くやずらりと 植木売り
雑 飛ばされた恋の 松葉くずさず
秋の月 我が上に やがて咲くらん 苔の花
秋 さては月あれ 秋の石にも
【名残裏 六句】
秋 先住の つけわたりなり 閑古鳥
雑 呼べど叫べど 動かぬ案山子
雑 屁比べや 夕顔棚の 下涼み
雑 もはや辞世も にほい残さず
花 霜おくと 呼ばはる小便 ついでかな
春 与えた肥の 春が乱るる
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
