一茶両吟 丗弐ノ巻 (32)
【表六句】
春 五六間 烏追ひけり 親雀
春 しも連れ達や 仔は仔の仲に
春 辛菜も 淋しき花の 咲きにけり
雑 皿に一つの 初午いなり
春の月 ただ頼め 花ははらはら あのとおり
雑 明日にこの子ぞ のこしたまふや
【裏十二句】
秋 蝶とぶや この世に望み ないやうに
恋 散る花ぎわの 蜜甘けれど
恋 春日野の 鹿に嗅がるる 袷かな
雑 角つく草の 露の曙
雑 うの花や 蛙葬る 明り先
雑 岩の枕ゆ 声だに聞かせよ
夏の月 菖蒲ふけ 浅間の煙 しづかなり
夏 小夜に浮かんだ 初孫の月
雑 夕暮や 蛍にしめる 薄畳
雑 焼け焦げもせぬ 骨の落ち目の
花 蚊の声や ほのぼの明けし 浅間山
春 よぶツユクサの 朝はみじかし
【名残表 十二句】
春 今咲きし 花へながるる 蚊やりかな
雑 直ぐにのぼらじ わが心にて
雑 あすもあすも 同じ夕べか 独り蚊屋
雑 ぽつねん燃ゆる 青火あやかし
冬 しらじらと 白髪も見えて 蚊やりかな
冬 老松の背も 雪と曲がりぬ
雑 宵祭り 大夕立の 過ぎにけり
恋 わけ合ふ軒に 残すぬくもり
恋 夕月の 正面におく 蚊やりかな
雑 桂のことも 遠き夢すぎし
秋の月 身の上の 鐘と知りつつ 夕涼み
秋 今は幾つと 数ひ黄昏て
【名残裏 六句】
春 門々の 下駄の泥より 春立ちぬ
雑 踏まれた跡に さく花けはひ
春 老いが身の 値踏みをさるる けさの春
雑 骨に染み入る 鶯の聲
花 家なしも 江戸の元旦 したりけり
春 梅に取られた いかのぼりかな
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
