一茶両吟 父肆ノ巻 (84)
【表六句】
冬 闇の夜の 初雪らしや ボンの凹
冬 なつかしき声の 雪女郎くる
雑 霜の夜や 前居た人の 煤下がる
雑 蝋燭の火も 銭燃やす世よ
新春 煤はきや 旭に向かう 鼻の穴
新春 明けてはらふは おととしの借り
【裏十二句】
冬 うすうすと 寝るや炬燵の 伏見舟
恋 女房まだかと 一富士二鷹
新春 朝雫 皺手につたふ 初日の出
恋 契った影も 露となりけり
雑 餅腹を こなしがてらの 接穂かな
雑 話相手は 盆栽かぎり
夏 さらし布 かすみの足に 聳えけり
夏の月 よい月生みぬ 山の神々
雑 そり負うて 坂を下るや 小サイ子
雑 親の苦労も 融けるや春には
冬 御神楽や 熾を弘げる 雪の上
春 神さりし里 呼ぶあとの春
【名残表 十二句】
秋 藪陰を てうちん通る 夜寒かな
雑 狐が迎へん わが門のさき
雑 ひいき目に 見てさへ寒き あたまかな
冬 枯れた芒に 木枯らしぞ吹く
雑 這へ笑へ 二ツになるぞ けさからは
新春 鏡餅まで 昇れやだいだい
雑 せき候や 腮でかぞへる 村の家
恋 人形おどる 踊り子の夜
恋 梅咲くや しあうじに猫の 影法師
雑 まるまる背中の 爪のあとまで
春 鬼打ちの 豆にすべって 泣く子かな
雑 ふくふく笑う 鳩の庭先
【名残裏 六句】
春 陽炎や 歩きながらの 御法談
雑 彼岸の華も あと何年か
雑 これ程と 牡丹の仕方 する子かな
雑 明日はお前も 開け大きく
花 凉しさに 弥陀同体の あぐらかな
春 蓮華の台に われも活仏
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
