一茶両吟 交参ノ巻 (63)
【表六句】
春 時鳥 雇い菩薩の 練り出しぬ
春 春の森から 羯諦羯諦
春 順々に 動き出しけり 雲の峰
雑 ゆき遺す風の 花の落とし子
秋の月 秋風や 櫛の歯を引く 奥道者
秋 坊主枯れては 月おつらめん
【裏十二句】
秋 おれが座も どこぞにたのむ 仏達
恋 歌こそあらば 合歓ならんゑ
恋 白露や 茶腹で越ゆる うつの山
雑 しばし二階の 団子と丸まり
雑 野ばくちや 銭の中なる きりぎりす
雑 襤褸着の次は 声を賭けるか
夏の月 夕やけや 人の中より 秋が立つ
夏 さよならと逝く ひと夏の月
雑 子宝が 蚯蚓のたるぞ 梶の葉に
雑 歌も心も はじめのことぶき
花 ふんどしに 笛つっさして 星むかへ
春 おどる花見が ほろり落つらん
【名残表 十二句】
春 六十に 二つふみこむ 夜寒かな
雑 骨枯れてなほ 花咲かじじい
雑 角力とりや はるばる来ぬる 親の塚
雑 支えた恩の 土俵となりも
冬 あら寒や 大あさがほの とぼけ咲き
冬 狂へば夏の 雪も凉しく
雑 桐の木や てきぱき散って つんと立つ
恋 我のみが知る でれ隠す袖
恋 寝た犬に ふはとかぶさる 一葉かな
雑 恋しくて そはよりそふ風よ
秋の月 梟が 笑ふ目つきや 辻角力
秋 抱きつき数ふ 星のいくつと
【名残裏 六句】
秋 小粒でも 東下りの 角力かな
雑 居反り負かせや から国大名
雑 世につれて 花火の玉も 大きいぞ
雑 なら我が玉ぞ まして見せんぞ
秋 楽々と 喰うて寝る世や 秋の露
春 畳の草と なる春はまだ
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
