一茶両吟 父壱ノ巻 (81)
【表六句】
夏 山の湯や だぶりだぶりと 日の長き
雑 けぶりと消ぬば われ仙人ぞ
春 梅どこか 二月の雪の 二三尺
雑 とけた春には 花咲かが骨
春 春風や からりとかわく 流し元
春の月 影なつかしき 月光の妻
【裏十二句】
秋 陽炎や 新吉原の 昼の体
恋 火の子となりや 浮世の人も
恋 傘さして 箱根越すなり 春の雨
雑 小さく引かれた 路ぞかなしき
雑 春雨や 窓から値切る 芝肴
雑 桶に泳ぐは わが来世かな
雑 花さくや 伊達に咥へし 殻ぎせる
雑 白波五衆も あと我ばかり
雑 坂本は 袂の下ぞ 夕雲雀
雑 はるかす家に もう帰れんと
花 人に花 大からくりの うき世かな
春 こいつあ春から 三吉さそふ
【名残表 十二句】
春 雁行くな 小菜もほち やちやほけ立つに
雑 やぶれた國に 鬼待つ酒場
雑 山焼くや 夜は美しき 信濃川
雑 天上天下と 星ぞながれて
夏 山焼の 明かりに下る 夜船かな
夏 最後と見るは ああ大文字
雑 開帳に 逢ふや雀も 親子連れ
恋 懐かし背中の 牛のことごと
秋の月 出る月や 壬生狂言の 指の先
恋 隠した顔の 君を焚きしめ
秋 たのもしや 棚の蚕も 喰い盛り
秋 孫のとなりに 我は枯れても
【名残裏 六句】
春の月 花御堂 月も昇らせ 給ひけり
雑 こころ澄みなば 甘茶の香り
春の月 スッポンも 時や作らん 春の月
雑 舌の鼓が 成仏の経
花 祝い日や 白い僧たち 白い蝶
春 萌え初める春に 降りるひとあり
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
