一茶両吟 丗伍ノ巻 (35)
【表六句】
夏 下総の 四国巡りや かんこ鳥
夏 本歌わすれて 鳴く夏の空
春 老いぬれば ただ蚊をやくを 手柄かな
雑 頭枯野に 若草もえずば
秋の月 蚊やりして 皆をち甥の 在所かな
秋 月みた月は 親も同じに
【裏十二句】
秋 行々し 下手盗人を はやすらん
恋 好きにさせよと 浮かぶ鴨かな
恋 夏の夜や うらから見ても 亦打山
雑 鬼火にさそふ 狐の流し目
雑 鵜匠や 鵜を遊ばする 艸の花
雑 雛よ学べと およぐ仕草に
冬の月 何をして 腹をへらさん 衣更え
冬 踊り教へよ 狸の月よ
雑 蚊柱や およそ五尺の 菊の花
雑 大往生ぞと 人は泣けども
花 かう居るも 皆骸骨ぞ 夕すずみ
春 桃ちる下の 喰ふ鬼は誰
【名残表 十二句】
夏 しんしんと 百合の咲きけり 鳴く雲雀
雑 雲にたちあぎ もう三年か
雑 梟よ 蚊屋なき家と 沙汰するな
雑 夜こす枝の 選る格子灯
夏 我汝を 待つこと久し 時鳥
夏 里が恋ひしと 空蝉鳴けど
雑 生きている ばかりぞ我と 芥子の花
恋 虫にふられて 風にゆらるる
恋 五月雨や 胸につかへる ちちぶ山
雑 別れた舟の 雲かくれなそ
雑 古郷や よるも障るも 茨の花
雑 とげとげしきは 我のかたかも
【名残裏 六句】
秋 けいこ笛 田はことごとく 青みけり
秋の月 新嘗の月よと 鼓ゆめうち
秋 涼風や 力一ぱい きりぎりす
雑 こひ鳴く明日は 土にかへらん
花 大空の 見事に暮るる 暑さかな
春 木蓮もゆる 富士のみちみち
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
