一茶両吟 交ノ巻 (60)
【表六句】
春 菜畠に 妻やこもりて 鳴く蛙
春 われ棄つる春の 風の子いまに
新春 正月や 辻の仏も 赤頭巾
雑 懐かしき人が 今を語らし
秋の月 石川を ざぶざぶ渡る 雉かな
秋 月に斑の ちさき尻ふり
【裏十二句】
秋 藪尻の 賽銭箱や 春の雨
恋 恋の成就と 狐が足あと
恋 臼歌を 聞き聞き並ぶ つばめかな
雑 まだ来ぬ恋の 歌をならひて
雑 茶を呑めと 鳴子引くなり 朝がすみ
雑 森や覚めれば 猪におどさる
春 人声に ほっとしたやら 夕桜
春の月 連れ逝かれやと 蟾蜍が夢に
雑 このやうな 末世を 桜だらけかな
雑 さわがしき江戸は 江戸を忘らめ
夏 魂棚に 孫の笑ひを 馳走かな
夏 ゆれる感謝の 盆提灯よ
【名残表 十二句】
春 御雛を しゃぶりたがりて 這ふ子かな
雑 お気にめすまま はひはひ王子
雑 御傘めす 月から春は 来たりけり
雑 蛇の目がにらむ 日光道中
春 有様は 我も花より 団子かな
雑 綺麗と散るは 人のすきずき
雑 花すみれ がむしゃら犬に 寝られけり
恋 いたいけなくよ 唐虫の家
恋 よりあきて もとへもどるや 花の影
雑 てふの心ぞ 知る花は知る
春 行く雁や 夜も見らるる しなの山
春の月 逃げゆく雲に 一瞥の月
【名残裏 六句】
秋 凧の尾を 追いかけ廻る をのこかな
雑 懐かし父が 風に呼びよる
雑 大凧の りんとしてある 日暮れかな
雑 遊び疲れた 夕焼け小焼け
花 一つ星 見つけたやうに 雉の鳴く
春 もう春だねと 一輪の菊
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
