『週刊 ゆきおとこ』 第67号
第 67号 2026/4/13 刊 ▲ 雪男の記事一覧
― ウェブスター 『空の空なるかな』 より
まったく 百花繚乱
馥郁たる埋葬式か
一度は 花にも花の季節
人にも その盛りの一度くらい
■ 連載小説 ― 西行のリュックサック (3)
吉野路の枝を折るのは二度目だが
まだ見ぬ山に 櫻が見たいと思うのは 西行法師に同じであった
さて 吉野参りの道中は
万菊丸という 控えめに言って派手な名前の小僧と一緒となった
巡礼の伴のしるしとして 登山帽にまじないを書く
吉野では お前にも櫻を見せてやろうぞ ひのきの笠
吉野では ボクにも櫻を見せてください ひのきの笠
まあ 簡単に言えば 花見客の酔っ払いの落書きである
初瀬長谷寺の堂の隅を間借りて 一夜を泊した
天武天皇~聖武天皇の御代より
藤原道長公 徳川家綱公による再建の世までつづく
歴史の面影が 夢に通り過ぎていった
翌早朝 修験葛城山にのぼりて 一言主神
今生の善悪の占いを賜りしのちに 曙の吉野山を拝む
それから私達は 雲雀よりも高く飛んで
三輪山~ 多武の峯~ 臍峠らの ハルヒに霞む峠を越え 竜門に到った
津風呂湖に見おろす櫻を語るには まづは 酒がなくては語れない
そんな 花花であった
その後 宮滝の縄文人と言葉を交わして
山吹のホロホロと散る 蜻蛉が瀧へおりる
トンボはいないが 花は満開であった
それからの三日間 私達は櫻狩りに明け暮れた
~ あさぼらけから 月と盃を共にする夜桜まで
西行のごとく
吉野山の道順を変えては 枝を折りつつ
眺めの良し悪しを競い 勝手に その優劣をつけてまわる
苔清水の水の トクトクと湧くがごとく
吉野山は 我々の乾いた喉を潤し 心を真新に洗い流した
ここに到っては 硯の中の詩など 無興のことに帰した
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