一茶両吟 匆玖ノ巻 (59)
【表六句】
冬 はつ雪や 吉原籠の ちうをとぶ
冬 えっさと駆けて ほいさと上がれ
春 あつさりと 春は来にけり 浅黄空
雑 とかす言葉が 花と咲くめれ
春 雪解けて 村いっぱいの 子供かな
春の月 わすれてあそべ 朧の貉
【裏十二句】
春 鶯や 鞍馬を下る 小でうちん
恋 谷わたる恋の 修験きびしき
恋 陽炎や 雫ながらの 肴銭
雑 通った娘の 笑顔わすれね
雑 陽炎や 藁で足ふく 這入り口
雑 逃げた男に 似た人形ぞ
春 ぼた餅や 地蔵のひざも 春の風
春の月 食われた月の 粉が口もと
雑 暇あれや 桜かざして 喧嘩買ひ
雑 吹雪く歌舞伎の 遠山いずこ
花 菜の花や 垣根にはさむ わらじ銭
春 桜の下には まだ遠からん
【名残表 十二句】
春 べつたりと 蝶の咲きたる 枯木かな
雑 吉原追われて 飯盛りの華
雑 わか艸に どたどた馬の 灸かな
雑 七転八倒や 二階のねずみ
冬 我が里は どうかすんでも いびつ池
冬 円く氷らぬ 年越しの月
雑 鶯が 呑むぞ浴びるぞ 割り下水
恋 連れて逃げろや 女房わすれね
恋 麦に菜に てんてん舞の 小てふかな
雑 小さき棲家に 夢たくさんさん
春 梅咲くや 我にとりつく 無精神
春 まだ散らぬかや 一昨年の枝
【名残裏 六句】
春 下戸村や しんかんとして 梅の花
雑 暖簾の裏は 何する人ぞ
雑 塀合や 三尺ばかり はつ空ぞ
雑 猫の正月 長屋を走る
恋 あまり鳴ひて 石になるなよ 猫の恋
春 名残の春の 下の句が出ず
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
