一茶両吟 匆弐ノ巻 (52)
【表六句】
春 一ツ舟に 馬も乗りけり 春の雨
春 花のお江戸や ばり降るもよし
春 下谷一番の 顔して ころもがへ
雑 姉さん迎へる ひと気なしやも
秋の月 貫綿や 尻のあたりの への字穴
秋 秋風吹いて 月も隠さん
【裏十二句】
秋 手枕や ボンのくぼより とぶ蛍
恋 暗やみ交わす キセルのけむり
恋 卯の花に とぼとぼ臼の 目切りかな
雑 削れば今も 石ぞ恋しや
雑 古郷や 蚊やり蚊やりの よこがすみ
雑 立ちあがれども 知るひとは消ぬ
夏の月 名月や 家より出でて 家に入る
夏 姫さりし夜の 影追ふわれは
雑 うつくしや 若竹の子の ついついと
雑 のばした先に 我も走りて
花 赤犬の 欠伸の先や かきつばた
夏 遠き日となり 端午の節句
【名残表 十二句】
夏 蚊柱を よけよけ這入る 乙鳥かな
雑 人のうわさも 八十八夜
雑 臼ほどの 月が出たとや 時鳥
雑 壊れた厠に ぬうとかぐやか
冬 寺山や 袂の下を 蝉のとぶ
冬 おかれた夏の 声はまほろし
雑 短夜や くねり盛りの 女郎花
恋 知らぬが蜘蛛の 糸にからまれ
恋 短夜や 妹が蚕の 食ひ盛り
雑 繭となるなば わが身の一つも
秋の月 露ちりて 急にみじかく なる夜かな
秋 いつ消えたかや 団子も月も
【名残裏 六句】
秋 山艸に 目をはじかれな 蝸牛
雑 老いにかすみし 萩の夕暮れ
雑 卯の花や 伏見へ通ふ 犬の道
雑 おはれ稲荷の まつ鳥居まで
花 三ヶ月の 清水守りて おはしけり
春 掬びに浮かぶ 蕾の夢はまだ
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
