一茶両吟 丗玖ノ巻 (39)
【表六句】
春 鍬のえに 鶯鳴くや 小梅村
春 雪のちぎりの ひとは何処へや
春 畠打ちや 手洟をねぢる 梅の花
雑 なみだの春は すぎと思われ
秋の月 陽炎や 道灌どのの 物見塚
秋 借りた月夜は 足も軽々
【裏十二句】
秋 むつましや 生まれかはらば のべの蝶
恋 蜜はここぞと ささふ花あれ
恋 蝶とぶや しなののおくの 草履道
雑 まぎれて迷ふ 繁み深みゆ
雑 象潟や 桜を浴びて なく蛙
雑 華は散れねど 歌は遺りぬ
夏の月 晴天に 産声上げる 雀かな
夏 玉子にわれて 蕎麦に浮く月
雑 赤馬の 鼻で吹きけり 雀の子
雑 嫌味もすずし 小粒と生まれゆ
花 黒土や 草履のうらも 梅の花
春 踏む春の日は うらら軽るかな
【名残表 十二句】
春 雑巾を はやかけらるる 接ぎ木かな
雑 汚れの先に 華はくるよし
雑 春雨に 大欠伸する 美人かな
雑 くたす牡丹の もと知る恋の
冬 五百崎や 御舟をがんで 帰る雁
冬 天地かへして ふる雪の朝
雑 わら苞や とうふのけぶる 春の雨
恋 包まれて我も 恋のくすぶり
恋 春風や 牛に引かれて 善光寺
雑 迷ふ色香に 蓮の咲きけり
秋の月 祠から 顔出して鳴く きぎすかな
秋 月見だんごに 並ぶ顔がほ
【名残裏 六句】
秋 屋根をはく 人の立ちけり 夕桜
雑 春のことごと 散る銀杏かな
雑 月花や 四十九年の むだ歩き
雑 路の数ほど 人の命よ
花 花の月のと ちんぷんかんぷんの 浮世かな
春 春霞の先に 一遇仙人
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
