一茶両吟 廿弐ノ巻 (22)
【表六句】
秋 木つつきの 死ネトテ叩く 柱かな
秋の月 甲斐なし虫の 歌は聞かねど
秋 秋風や 家さへ持たぬ 大男
雑 山を枕に 雲と寝返へり
夏 うら口は 小ばやく暮れて 秋の風
夏 夏よ逃げなそ 蝉が嫁なき
【裏十二句】
雑 秋の山 活きているとて うつ鉦か
恋 鈴かけひびく 鹿も恋すば
恋 ほろほろと むかご落ちけり 秋の雨
雑 こひし古寺 やどり二つの
雑 冷や冷やと 袖に入る日や 秋の山
雑 ゆかれし跡に 菊や咲かなそ
秋 秋の山 ひと顕はれて 寒げかな
秋の月 紅葉狩りよと 月見る女中
雑 あさがほに 子供の多き 在所かな
雑 ひらく明日の また明日まで
花 秋雨の こぼれ易さよ 片山家
春 春まつ春の つぼみ去りぬれ
【名残表 十二句】
春 年寄りや 月を見るにも ナムアミダ
雑 月光照らし 百骨おがむ
雑 かつしかや 月さす家は 下水ばた
雑 泥の流れも 神ありと聞き
夏 雁鳴くや 旅寝の空の 目にうかぶ
夏 夏の北斗の 郷はいずれか
雑 キリギリス きりきり死にも せざりけり
恋 杉の軒しも 一輪あらば
恋 キリギリス 鳴けとて燃やす 芦火かな
雑 彼岸の恋の 声をこがして
秋の月 朝寒や 蟾も眼を 皿にして
秋 萩の月見も かえる鐘なり
【名残裏 六句】
秋 ひやうひやうと ひさごの風も 九月かな
雑 つけを忘れじ おたふく暖簾
雑 紅葉して 百姓禰宜の 出立ちかな
雑 豊作よろかお 酒のみきみき
花 鴫たつて 畠の馬の あくびかな
春 はなむけさへも ものうい春よ
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
