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『週刊 ゆきおとこ』 第72号

第 72号   2026/5/18 刊                 ▲ 雪男の記事一覧



― マラルメ  『エドガー・ポーの墓』 より

 
 永遠が 彼を彼に変える
  詩人の抜き身の剣
 死の 奇妙な勝利の声
  世紀が未聞におどろかん
 
 
 

■ 連載夜話 ― 『ジェットドリーム』

      ~ 以前 どこかで



【あなたのオープニング】

 オープニング曲 :「ミスター・ロンリー」 by フランク・プゥルセル

 今日という一日の最後を飛び立って 
 今では あの街の喧騒も はるか雲の下へと置いてきました
 遠く なつかしく見える灯は さて いつの記憶のものでしょう

 今宵の空のスチュワードは
  旅路をしずかに見守る月の明かりと
  そして 星々はさらに雲海に煌めいて 
  この夜間飛行を 安らかに導いてくれています

 最高の夜に あなただけのジェット気流に乗って
 あこがれの旅へとテイクオフ

 今夜のフライトのお供をするのは
 パイロットの ○○○(あなた)
 そして 不思議の国の王子たちが
 旅先のご案内役をつとめてまいります
 


【グリーンウッド】

ニューヨーク・マンハッタン
 喧騒をひとつ渡ったロングアイランド  ブルックリンは
 初心者のツーリストにとっては
 一歩踏み込んだ ディープ・スポットと言えます
さて 観光旅行に出かけて行って
 目的地で 墓地を訪れることはなかなかないものです
ましてや 自国の風習とは縁の薄い外国の聖地ともなれば
 足が向かないのも 仕方のないことですが
したがいまして
 「お墓をお勧めします」 とはなかなか言いづらいものです
ですが ここ グリーンウッド・セメトリーは
 日本のお寺やヨーロッパの有名寺院にはない
 格別な "アメリカ" の匂いが存在します
アメリカ合衆国という まだそれほど古くはない歴史のなかで
 グリーンウッドは
 少しずつ生れてきたアメリカ文化の そして
 その遺産の証拠が刻まれた場所なのです
今日 この聖地には
 宝石王のチャールズ・ティファニー
 レーナード・バーンスタイン
 日本に駐在したハリス提督
 発明家モールスなどが 静かに眠っていらっしゃいます  
 


【今夜のアルバム】

Bass - Charlie Haden
Drums - Paul Motian
Piano - Keith Jarrett
 
 

 以前 どこかで見たことのある風景の中で 
 ボクは祈りを捧げていた
 

My Back Pages

キミの1ページには 元気そうに笑うボクがいた
ボクは この世で一番幸せそうな男の子で
 その1ページには 光が溢れている
ボクの1ページには 知らない女の子が写っている
その子は ボクと腕を組んで
 まるで 恋人同士のような時間の中にいた
ボクの1ページには
 真っ黒に焼けて 何が写っていたのか分からないものがある
何やら白っぽい腕が伸びていて
 何かを掴もうとしているが
  何を欲しがっているのかは よく分からない
 

Pretty Ballad

どこからか 懐かしいメロディが聴こえてきた
とっくの昔に忘れていたメロディだ でも思い出した 
それは ボクが初めて 父親の背中で聴いたものだった
記憶の奥底で
 そのメロディがボクに呼びかける
 さあ これから始まるよ て
でも 地下鉄に乗ったら
 どんなメロディだったか 忘れてしまった
 

Moving Soon

地下鉄は 駅をすっ飛ばして
 猛スピードでトンネルを突き抜けていく
もう これ以上 止まる駅は無いはずなのに
トンネルは 何処までも続いていて
 どんどんと 深く潜っていった
乗客はみな下を向いている
 誰一人 ここで下ろせと叫ぶものは居なかった
ただ 窓の外には
 いったい何の光なのか分からない
 白い線が 時々波を打ちながら 
 ボクの記憶をたどるように
  猛烈なスピードで 後ろに巻き取られていく
 

Somewhere Before

どの駅で下りたのだろう
 終わりのない暗い階段を上って行くと
 眩しい地上に出た
そこは ボクの知っている「今」ではなかった
街は
 時代から取り残されたような あかぎれて
  すすけて 埃のつもった
  かび臭い匂いがしていた
追い抜いていく自動車は まるでクラシックカーで
 運転しているのは皆 マネキンだ
遠くで ガラスの時計台が 3つ鐘を打った
大八車には ムシロが被されていて
 その端から 青い足首がのぞいている
三毛猫が一匹
 見覚えのあるタバコ屋の下で
 大きな欠伸をしている午後のことだった
 

New Rag

新しいボロを着た女
 目の前にやってきて
 油で真っ黒な掌を ボクの前に突き出す
女の目は 現実を見ているような
  見ていないような風で
 ボクの顎あたりで じっと止まっていた
ボクは ポケットから何色か確かめもせず
 コインを一枚 彼女の掌に落とした
彼女の顔が ぱっくりと真っ二つに割れて
 なかから天使のような微笑みが返ってきた
そしてそのまま ケケケ と笑って 女は走っていった
ボクの足元には
 どこを見ているのか分からない女の顔の半分が落ちていた
 

A Moment For Tears

その女の顔の瞳から すっと一筋の涙がこぼれた
と同時に
 ボクの頬にも 涙がつたった
女の口元から
 苦しく 我慢しているような泣き声がもれる
  大丈夫だ とも言ってやれない
  もうあきらめろ とも言ってやれない
せめてボクには 彼女の泣き声を聞いてやる事しか
女の顔は いつまでも泣き止まなかった
 

Pout's Over (And The Day's Not Through)

気が付くと
 ボクは 鏡のなかでふくれっ面をしていた
それまで 誰と話していたのかが思い出せない ただ 
ただ
 ボクはどうして ふくれているのだろう?
なんとなく
 誰かに遣いを頼まれた気がする
ポケットには
 そのつり銭の小銭らしきものが ジャラジャラ
何かを買いにでかけたのだろうか
 でも そんな荷物は 何もない
何かのお代を支払いにいったのだろうか
 でも レシートもなにもない
あるいは ボクは
 ここにいることが ボクの役目なのだろうか
 

Dedicated To You

鏡のなかのふくれっ面
 サヨナラを言って ボクは歩き出した
花屋
 赤いフリージア ボクは
  ポケットの小銭で フリージアを一本買った
小銭はきっと ボクの駄賃だったろう
 だから 構いやしない
ボクは 赤い花一輪を握って
 何も言わない小川の せせらぎの 横を下って行った
教会の十字架から 誰かが見下ろす墓地
 女の子の名前が刻まれた銀色のプレート 
そこに 赤い花を捧げた
 

Old Rag

遠くで サーカスの楽隊が 陽気な音楽を演奏してた
ピエロが 大きな玉の上を走っているような音楽だった
赤い風船のような
 小さな女の子が笑ったような気がした
 
 

 
【あなたのエンディング】

 エンディング曲 :「夜間飛行」 by レーモンド・ルフェーブル

 さて 夜は
 すっかり 夢の中へと溶け込んでいきます

 遠くに聞こえた歌は 幻でしょうか 
 それとも 明日の予告編でしょうか

 そんな素敵な物語が きっと 
 あなただけの旅の始まりとともに 扉を開けて待っています

 さあ あともう少し
  不思議のつづきを あなた自身の夢の中で

 今夜 お送りしたアルバムは 
 キース・ジャレット・トリオで 『サムウェア・ビフォア』

 フライトのお供をいたしましたパイロットは
 わたくし ○○○ でした
 

 

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