一茶両吟 せノ巻 (70)
【表六句】
秋 わか犬が 蜻蛉返りの 花野かな
秋の月 秋に狂ふは 大満月ぞ
秋 膝がしら 木曾の夜寒に 古びけり
雑 がくがくぶるふ 義仲が鐘
夏 小夜砧 妹が茶の子の 大きさよ
夏 茶柱に立つ 去年がおもかげ
【裏十二句】
雑 柿崎や しぶしぶ鳴きの 閑古鳥
恋 熟すまにまに 味はこいけれ
恋 さぼてんに どうだと下がる 糸瓜かな
雑 つぼみ膨らす 棘のつんでれ
雑 我が菊や なりにもふりにも かまはずに
雑 ゆる里山や 右にも左にも
冬の月 鳶ヒヨロ ヒヒヨロ神の 御立げな
冬 日輪ゆきて 月が守り唄
雑 鶏頭が 立ち往生を したりけり
雑 枯草路も 赤を忘れね
花 御取越 飴でもちくふ 夜なりけり
春 花は他力に 春を咲かすや
【名残表 十二句】
春 炉をあけて 見てもつまらぬ 独りかな
雑 初釜たくは 我が骨のみに
雑 時雨せよ 茶壷の口を 今切るぞ
雑 薫の屋根も なみだ煙りぬ
夏 かさ森の お仙出て見よ 玉霰
夏 子熊かくしし 笹のかげから
雑 猫の仔が ちょいと押さへる 落葉かな
恋 わいも小判が うれしや旦那
恋 枝炭の 白粉ぬりて 京に入る
雑 売られたからに 燃えて見すらん
冬 行く年や 覚一つと 書く附木
雑 酔ひの鐘きき 邪を忘るなり
【名残裏 六句】
秋 鴨も菜も たんとな村の みじめさよ
秋の月 鍋に浮かぶは 秋の月のみ
雑 里神楽 懐の子も 手をたたく
雑 神よ護らん あたらし命
花 夜神楽や 焚火の中へ 散る紅葉
春 春は花にと 咲かせ給はん
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
