一茶両吟 匆伍ノ巻 (55)
【表六句】
冬 餅つくや 芒のなかの いく在所
冬 散る初雪の 越せば二十歳の
秋の月 あの月を とつてくれろと 泣く子かな
雑 鬼の峠ぞ 振りかへりなそ
雑 朝露に 浄土参りの けいこかな
雑 菩薩の匂いの 心地よしかろ
【裏十二句】
秋 裸子と 烏とさわぐ 野分かな
恋 ずしと響くは ねずみの恋やも
恋 膳先は 葎しづくや 野分吹く
雑 ちらす紅葉の 石のぬくもり
雑 腹の上に 字を書きならふ 夜永かな
雑 歌に応ふる 末がたのしみ
夏の月 下駄からり からり夜永の やつらかな
夏 穴から出ぬる 門前の月
雑 あいつらも 夜永なるべし そそり唄
雑 見知った黒子の 左右から
花 あばら骨 なでじとすれど 夜寒かな
春 朽ち木の春の 蕾とおぼゆれ
【名残表 十二句】
春 山霧の さつさと抜ける 座敷かな
雑 佐保はあけぼの やうやうと過ぎ
雑 秋風に 歩いて逃げる 蛍かな
雑 燃やして忘る 夏のあれこれ
秋 橋杭や 泥にまぎれし きりぎりす
秋 去られて仰ぐ 天の川原
雑 人のため しぐれておはす 仏かな
雑 形見なとりそ 手鞠唄まで
恋 うそ寒や 親といふ字を 知ってから
雑 かくす涙の 女郎花かな
秋の月 親に似た 顔見出して 秋の暮れ
秋 東のお山に やさしき笑顔
【名残裏 六句】
秋 長き夜や 心の鬼が 身を責める
雑 馬肥ゆる舟の 酒の海まで
雑 蜻蛉の 尻でなぶるや 角田川
雑 竿いっぽんの 雲よあくがれ
花 汁鍋に むしり込んだり 菊の花
春 若菜とつむや 万葉の春
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
