一茶両吟 卆肆ノ巻 (94)
【表六句】
冬 凉さや 糊のかわかぬ 小行灯
冬 ゆらすは雪の ひとが息かも
雑 筏士の 箸にからまる 蛍かな
雑 魂もやす 三途の渡し
秋の月 あさら井や 小魚とあそぶ ところ天
秋 月と浮かべた 天の川かな
【裏十二句】
秋 ぼんの凹から 冷やしけり 天の川
恋 背中に聞こゆ 鈴の織姫
恋 稲妻に 並ぶやどれも 五十顔
雑 そら恐ろしや 鬼女郎かな
秋 歯ぎしみの 拍子とるなり きりぎりす
秋 あともう一手なり その負け相撲
秋 子宝の 多い在所や 夕ぎぬた
秋の月 つく月の腹の 迎えん狸
雑 頬げたを 切りさげられな 鵙の声
雑 やせてやつれて 串に焼かれて
秋 仰のけに 落ちて鳴きけり 秋のセミ
春 椿と交じるは 来春のこと
【名残表 十二句】
秋 銭箱の 穴より出たり きりぎりす
雑 盗み出したは 誰が願いか
雑 東風吹くや 土手に乗せたる 犬の顎
雑 吾も連れゆけ 葦枯れの骨
秋 朝寒や 垣の茶笊の 影法師
秋 香も消ぬや 番茶の女房
雑 立つ鴫や 我がうしろにも うつけ人
恋 格子金魚の あれやこれやと
恋 遠山が 目玉にうつる とんぼかな
雑 約束の山の 紅葉ちるらし
秋の月 故郷や 近よる人を 切る芒
秋 お疲れ様の 月夜が暖簾
【名残裏 六句】
秋 いくばくの 人の油よ 稲の花
雑 しぼられてなほ 黄金色の藁
雑 我が味の 柘榴に這わす 虱かな
雑 気づけば脛も 骨の子なりて
秋 今穴に 入るなり蛇も 夫婦連れ
春 さくらの数だけ 生まれ来ん春
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
