一茶両吟 交肆ノ巻 (64)
【表六句】
秋 いざさらば 露と答へよ 合点か
雑 鬼ぞ喰ふ 幼き歌と影
秋の月 木母寺は 反吐だらけなり けふの月
雑 梅若わらふ 都の犬ら
夏 稲妻を 浴びせかけるや 死にぎらひ
夏 入道さって また一難く
【裏十二句】
雑 稲妻や うっかりひよんと した顔へ
恋 うつ恋ごころ 誰を喰わんや
恋 へら鷺や 水が冷たい 歩き様
雑 見つけた鯉は 朝まで逃さじ
雑 足枕 手枕鹿の むつましや
雑 ける若草の 仔は春日かな
冬の月 雁なくや 浅黄に暮れる ちちぶ山
冬 こゑ忘れたか 宵の月姫
雑 大仏の 鼻から出たり けさの霧
雑 逃げろ逃げろや 天邪鬼来ん
花 石梨の からりからりと 夜寒かな
春 咲かせた春の 薫りが肴
【名残表 十二句】
春 鵙のこゑ 堪忍袋 やぶれたか
雑 となりの贄は 誰くふ贄ぞ
雑 蓬生や 露の中なる 粉引唄
雑 我が身まわせば 臼ひとつぶん
夏 勝ち菊や 力み返って 持つ奴
夏 主人が夏は 我の夏なり
雑 むさしのへ 投げ出す足や 秋の暮れ
恋 別れた人の 影をおひおひ
秋 どの草も 犬の後架ぞ 散る紅葉
雑 土に伏しては 糞も神なり
秋 妙法の 火に点をうつ 烏かな
秋の月 かれ燃ゑつきて 月ぞ隠さん
【名残裏 六句】
秋 青空に 指で字をかく 秋の暮れ
雑 遺す骨なく 詠まれぬ辞世
雑 投げ節や 東海道を 投げ頭巾
雑 なめてくれやん 都みるまで
花 御談義の 手まねも見ゆる 枯野かな
春 坊主頭と 笑ふ竹の子
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
