一茶両吟 丗壱ノ巻 (31)
【表六句】
夏 蠅打ちに 敲かれ給ふ 仏かな
雑 救はる五分の 歌にのこせよ
夏 短夜に 竹の風癖 直りけり
雑 坊主あたまに 櫛はとらねど
秋の月 顔ぬらす ひたひた水や 青芒
秋 小さき爪に 母の手のごひ
【裏十二句】
秋 瓜むいて 芒の風に 吹かれけり
恋 声は聴かねど 二つ割りわけ
恋 湯けぶりに ふすぼりもせぬ 月のかほ
雑 いだきよせしも 逃れ浮く影
雑 秋立つや 雨ふり花の けろけろと
雑 鬼のこぬ間に 親里がゑる
秋の月 秋蝉の 終の敷き寝の 一葉かな
秋 虫食ふ穴も 来世の月見と
雑 二布して 夕顔棚の 星むかへ
雑 円満わたる 赤い七夕
花 秋風や 仏に近き 年のほど
春 もう越せぬ春と 花が迎へぬ
【名残表 十二句】
春の月 名月の ご覧のとおり 屑家なり
春 がらくた辻に 春は立つらめ
雑 梅咲いて 身のおろかさの 同じなり
雑 踊る手もとむ 門斎ひ餅
冬 元日や 我のみならぬ 巣なし鳥
雑 焼けた空まつ 次の峰山
雑 畠打ちの 顔から暮るる 筑波山
恋 歌垣時と 二つ影きえ
恋 夕風呂の だぶりだぶりと かすみかな
雑 湯の波ゆれて わたる舟影
春 大鶴の 身じろぎもせぬ 日永かな
雑 寄り切る春の 綱を取るまで
【名残裏 六句】
春 永の日に 口明け通る 烏かな
雑 つきぬ讒舌 耳なし芳一
雑 一村は かたりともせぬ 日永かな
雑 老いの最期の 墓を遺して
花 穴一の 穴に馴れけり 雀の子
春 花と啼く日の 春は哀しき
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
