一茶両吟 卌伍ノ巻 (45)
【表六句】
春 やまぶきや いたちの嫁が 手をかざす
春 面影ゆるる 硝煙の春
春 逃げ足や 尿たれながら 鳴く蛙
雑 歳もおひおひ 嘘も枯れぬる
夏 蕗の葉に 片足かけて 鳴く蛙
雑 みなと酒場の 風来坊よ
【裏十二句】
秋 火の上を 上手にとぶは うかれ猫
恋 たとへ灰とも またたびの夜
恋 有明の 雁になりたや 行く雁の
雑 蘆のしとねに ひとり浮かせじ
雑 なの花の とつぱずれなり ふじの山
雑 雲の上から のぞく我あり
夏の月 春雨や てうちん持ちの 小傾城
夏 晴れて夏夜の 望月なりん
雑 江戸入りの 一番声や ほととぎす
雑 わける暖簾の まずは一杯
花 今のめる までも花さく 老木かな
春 夢にとどかせ 弥生のつづき
【名残表 十二句】
夏 花げしの ふはつくような 前歯かな
雑 うわ言ばかりの 勧進坊主
雑 白壁の 里見くだして かんこ鳥
雑 巣立った屋根の 今は星ふる
夏 短夜を あくせくけぶる 浅間かな
雑 見て見ぬふりの 山神の朝
雑 しんとして 青田も見ゆる 簾かな
恋 若草ゆらぐ 風のはずかし
恋 なの花に 上総念仏の けいこかな
雑 蝶よ酔はせよ 釘を抜くまで
秋の月 亡き母や 海見るたびに 見るたびに
秋 水母と浮かぶ 月の影から
【名残裏 六句】
秋 時鳥 大内山を 夜逃げして
雑 泣く屏風絵の 姫となりなん
雑 我ら儀は ただやかましい 時鳥
雑 がやと撃たれて 散りぬる友よ
花 目覚ましの ぼたん芍薬で ありしよな
春 哀れげなるは 春の事かも
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
