一茶両吟 交陸ノ巻 (66)
【表六句】
春 春風や 大宮人の 野雪隠
春 金色絢爛 若草しげれ
冬 はつ雪を 見よや奴が 尻の先
雑 箱根こゆるか 馬がいや啼く
冬 暖め鳥 同士が何か 咄すぞよ
冬 炬燵の中の 足は知らねと
【裏十二句】
秋 浮けナマコ 仏法流布の 世なるぞよ
恋 もぐった砂に 恋の経文
恋 はく日から はや白足袋で なかりけり
雑 花婿ころがす 日も遠からじ
雑 独り身や 上野歩いて とし忘れ
雑 忍ぶも消ゆる ゆく年ゆく年
冬 本町の 木戸りんとして 寒さかな
冬の月 握った月が 東へ西へ
雑 大根引き 大根で道を 教へけり
雑 はんぺん玉子 こんにゃく竹輪
花 さはつたら 手も切れやせん 冬木立
春 雁とり爺は ご機嫌ななめ
【名残表 十二句】
春 出つひでに ひんむしつたる わかなかな
雑 老いゆく春の 日和うらめし
雑 陽炎や 切り欠ひてうる 砥石山
雑 にぶる言葉の 切先たてよ
冬 陽炎や 猫にもたかる 歩き神
冬 よい年も越せ 賽銭泥棒
雑 涅槃像 銭見ておはす 顔もあり
恋 弁天様の われ膝枕
恋 しんしんと 親鸞松の 春の雨
雑 恋の気配の 依る代のなく
秋の月 鹿の角 かりて休みし 小てふかな
秋 家出むすめよ 月な忘れそ
【名残裏 六句】
秋 おらが世や そこらの草も 餅になる
雑 虫のいのちの 秋ぞ果てくば
雑 らふそくで たばこ吸ひけり 時鳥
雑 白み明るは 窓か財布か
花 野ばくちが 打つちらかりて 鳴く雲雀
春 菜の花と燃ゆ わが命かな
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
