一茶両吟 せ漆ノ巻 (77)
【表六句】
春 うかれきて 鶏追ひまくる 男猫かな
春 恥かきすつなそ 春の股旅
雑 寝て起きて 大欠伸して 猫の恋
雑 大奥ぬすむ のら大名ぞ
春 春風や 犬の寝そべる わたし舟
春の月 朧か月か よい波ゆるる
【裏十二句】
秋 のし餅の 皺手の迹は かくれぬぞ
恋 つまんだ恋の 雀かくれて
恋 駒込の 不二に棚引く 蚊やりかな
雑 御前に飛べば 山も落つらめ
雑 短夜や 河原芝居の ぬり顔に
雑 知ったる鬼の 首が狂狂
夏の月 月さすや 紙の蚊帳でも おれが家
夏 忍び込んだる いのち一夜に
雑 砂山の ほてりにむせる 小舟かな
雑 横に歩けど 恋みつからじ
花 ちさい子が たばこ吹くなり 麦の秋
夏 もう一年ね そより来た盆
【名残表 十二句】
夏 言い分の あるつらつきや 引きがへる
雑 油買へども 安からざめり
雑 喧嘩買ひ 花ふんづけて 通りけり
雑 散らさば仏も ただの石ころ
雑 したはしや 昔しのぶの 翁椀
雑 ことばの雑煮が 一汁一菜
雑 夕凉や 汁の実を釣る せどの海
恋 連れ消えうせぬ 竜宮の亀
恋 うす縁や 蓬に吹かれて 夕茶漬け
雑 ならべた尻も 遠きことかな
秋の月 息災で お目にかかるぞ 艸の露
秋 野晒しが見る 月は東に
【名残裏 六句】
夏 大の字に 寝て見たりけり 雲の峰
雑 百鬼が何ぞ われ孫悟空
雑 みぞ川を おぶさって飛ぶ いなごかな
雑 落ちれど三途も 夫婦さきはひ
秋 秋風や 戸を明け残す うら座敷
春 また春に来ん 仏間の彼岸
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
