一茶両吟 玖ノ巻 (9)
【表六句】
春 なつかしや 梅あちこちに ゆふ木魚
春 十三なれど 春はまた春
春の月 茹で汁の 川にけぶるや 春の月
雑 おも識るひとの 咎めと聞こゆ
秋 つやつやと 露のおりたる やけ野かな
秋 あきらむ秋に 夏を恨まじ
【裏十二句】
春 野辺の梅 かじけ仏の ましまししける
恋 白妙ちらせ 伴す寝間まで
恋 辻風の 砂にまぶれし 小蝶かな
雑 姐さんお呼びに 草陰のまだ
雑 八ツ過ぎの 家陰ゆく人 春の蝶
雑 石垣のこし 店は去りぬに
春の月 文七が 下駄の白さよ 春の月
冬 雪ける墨の 掛け軸がうた
秋 ひとりなは わが星ならん 天の川
雑 時鳥きく 夜ながまた好し
花 鴫どもも 立ち尽くしたり 木なし山
春 佐保姫ゆめの から花車
【名残表 十二句】
秋 洪水の 尺とる門よ 秋の風
雑 要らぬ寶と 流せぬ欲よ
雑 助舟に 親子おちあうて 星むかへ
雑 来世ちぎりて のぼりく日まで
恋 夕陰や 片がは町の 薄羽織
恋 火虫焼きおる 女郎が七輪
雑 萍の 花より低き 通りかな
雑 一文銭に 見る夢もなし
夏 飴ン棒 横にくわへて 初袷
雑 甘く見らるも 幸せ者ぞ
秋の月 萍や 黒い小蝶の ひらひらと
秋 秋月にとぶ 影の不思議さ
【名残裏 六句】
秋 追われ追われ 蚊の湧く艸を 寝所かな
雑 名代の冥加ぞ 痒も栄なり
雑 空腹に 雷ひびく 夏野かな
雑 堅く労せど 賽の河原に
花 雲の峯 下から出たる 小舟かな
春 花に詠ませば み吉野の御世
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
