一茶両吟 せ伍ノ巻 (75)
【表六句】
秋の月 名月や 芒に座とる 居酒呑み
秋 たあさんと注ぐ きつねの返盃
秋の月 名月や 箕ではかり込む 御賽銭
雑 小判ざくざく 銀杏ふむ夜
冬の月 ふしぎなり 生まれた家で けふの月
雑 厩のことも 知る人ぞ知る
【裏十二句】
雑 大声に 夜寒かたるや 垣越しに
恋 すいっと隠れる 草むらの影
恋 卅日銭 がらつく笊の 夜寒かな
雑 金の切れ目の 身は軽々し
雑 茹で栗や 胡坐巧者な ちひさい子
雑 いが栗頭 並べた地蔵
秋 秋風や 鶏なく家の てっぺんに
秋の月 文まつ方の 別る月かも
雑 昼飯を ぶらさげて居る かがしかな
雑 気になるくわっと 烏ひと啼き
花 山霧の 足にからまる 日暮れかな
春 母を弔ふ 狐のかみそり
【名残表 十二句】
春 女郎花 あつけらこんと 立てりけり
雑 まだ何やるを しらざりし春
雑 蛬 尿瓶の音も ほそる夜ぞ
雑 命すつると 思へば惜しみ
冬 垣外に 屁を棄てに出る 夜寒かな
冬の月 薫る月みて 尻が悪ぐち
雑 くやしくも 熟柿仲間の 座につきぬ
恋 むかし吊るした しぶみ懐かし
恋 肌寒や むさしの国は 六十里
雑 逃げよ おふ風がおふ われ捨てて
秋の月 さす月や ぼんの窪から 寒が入る
秋 骨の枯木に ゆき掛かる雲
【名残裏 六句】
秋 庵の大根 客あるたびに 引かれけり
雑 さみしき穴の 空いた畑よ
雑 屁くらべが また始まるぞ 冬ごもり
雑 いざ出陣と こけど櫂なし
雑 杉箸で 火をはさみけり 夷講
春 めでたい春を ふくふくと焼く
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
