『週刊 ゆきおとこ』 第30号
第 30号 2025/7/28 刊 ▲ 雪男の記事一覧
― ツェラン 『讃歌』 より
もはや 土も粘土もなし
塵に呪文もなし
誰も
讃えあれ
汝がために花は咲く
汝に向かいて
「無」が ひとつ ありき
■ 連続小説 ― アメリゴ・ハウンドドッグ
~ インディアナポリス (1)
皺枯れた老人の声が言った
「新しい家族を作るのだ」 と
その村では
かつて テレヴィの青春ドラマで観たような
夢のような生活をする家族が集まる
子供たちには みな十分な教育を与えられて そして
何某かの自慢できる仕事につき
庭付きの小さな家に暮らす
町には 映画館があって
そこで恋人とファーストキスをし
気が付けば 初恋は「お婆さん」と言われる歳になっていた
孫に綺麗なドレスを買ってあげる
― その真っ白なドレスはけして戦争なんかで汚されることがない
そんな幸せな絵の中に暮らせる家族を と
老人は 手に燃えるような真っ赤な杖を握っていた そして
一言一言 自分の主張のことばを若者に訴えるたびに
その赤い杖を振り回した すると
老人の話に集まった若者らは
魔法にかかったかのように
「うおーっ」
と叫び声をあげ 拳を空に向かって突き上げた
まるで 入社式の日に聞かされた
退屈な話のひとつのような ラヂヲ・ドラマだった
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