一茶両吟 卆参ノ巻 (93)
【表六句】
夏 みなしごの 我は光らぬ 蛍かな
夏 母の団扇の 風に揺られりて
冬の月 寒月に 立つや仁王の からつ脛
雑 門前祓ふ たぬき踊りぞ
春 春風や 侍二人 犬の供
雑 頭さげても 尻尾ゆずらず
【裏十二句】
秋 老いぬれば 日の長いにも 泪かな
恋 ならべた茶碗は いつの秋から
恋 曲水や どたり寝ころぶ 其角組
雑 下の句わすれて 舟がゆくゆく
雑 湖へ ずり出だしけり 雲の峰
雑 落ちてくるなよ 雷小僧
春 迹どもは かすみ引きけり 加賀の守
春の月 みこし運ぶも 月はつきかも
花 先繰りに 花咲く山や ひと日づつ
雑 まつ暇のなく われ生ひ古しき
春 晴天の とつぱづれなり 汐干がた
雑 泥まみれだに 寄せる貝なし
【名残表 十二句】
春 雀子や ものやる児子も 口を明く
雑 思ひ出したか 垂乳根の味
雑 人の寄る 水からくりや 木下闇
雑 竜神隠る 雲の広袖
秋 蛬 身を売られても 鳴きにけり
秋 籠のなかにも 命なりなば
雑 おのが羽 皆喰ひぬいて なく鳥よ
恋 ことば一つに ただ優しくて
恋 江戸住みや 二階の窓の 初のぼり
雑 子燕なくなく 夏はまうすぐ
夏 田の人よ 御免候らへ 昼寝蚊屋
夏の月 寝待さぼるぞ 晩夏ふく風
【名残裏 六句】
夏 蚊帳つりて 喰いに出るなり 夕茶漬け
雑 喰われてもどる 脛の骨々
雑 歩きながらに 唐傘干せば ほととぎす
雑 なけてくるなり 大道芸人
花 山道の 案内顔や 虻がとぶ
春 春よ迷わせ つまらぬ人生
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
