一茶両吟 卆伍ノ巻 (95)
【表六句】
秋 鬼灯の 口つきを姉が 指南かな
秋の月 朔に隠さる 狐の嫁入り
秋 猫の子の くるくる舞ひや ちる木の葉
雑 梢の先に 聞く母の声
冬 ずぶ濡れの 大名を見る 炬燵かな
冬 下に下にと 雨はふるもの
【裏十二句】
雑 五六疋 馬干しておく 枯野かな
恋 美男美女とも お気の召すまま
恋 こがらしや 風に乗りゆく 火消し馬
雑 潤い失して 火の用心かな
冬 春めくや 藪ありて雪ありて 雪
雑 埋もれた夢の 去年が野晒し
冬 重荷おふ 牛や頭に つもる雪
冬の月 角をかくして 受くる盃
春 春風の 底意地寒し しなの山
雑 峠に置き去る 村八分目
冬 真っすぐな 小便穴や 門の雪
春 梅ちりいそぎ 犬の春くる
【名残表 十二句】
冬 うしろから 寒が入るなり 壁の穴
雑 なむつれゆきそ 観音菩薩
冬 おくびなりに 吹き込む雪や 枕元
雑 見送らる身は つめたくもなし
新年 ことしから 丸儲けぞよ 娑婆あそび
雑 いのち拾いが ばくち三昧
春 どぶ板や 火かげはらはら 春の雪
恋 かけ落ち踏むは 足抜の猫
雑 鳴く猫に 赤ン目をして 手まりかな
恋 ころがる先の お座敷太夫
冬 母親を 霜よけにして 寝た子かな
冬の月 月が笠する 夢のおふくろ
【名残裏 六句】
新年 もう一度 せめて目を開け 雑煮膳
雑 餅よりかたし ちいさき拳
雑 陽炎や 目につきまとふ わらひ顔
雑 霜のひととか 人は言ふけれ
花 大寒と 云ふ顔もあり ひ雛たち
春 桃に待つなり 佐保のお迎へ
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
