一茶両吟 せ玖ノ巻 (79)
【表六句】
新春 タバコ殻 けぶり歩くや うす氷
新春 とんどと燃やせ 都は謹賀
冬 霜がれて しやうじの蝿の かはゆさよ
雑 いつまでも あると思うな 温情
春の月 さくさくと 氷噛みつる 茶漬けかな
雑 月をも齧れ 沢庵いっぺん
【裏十二句】
雑 うらの戸や 腹へひびきて 凍て割るる
恋 逃げても無駄よと 雪女郎の恋
恋 ちょんぼりと 雪の明かりや 高架道
雑 酔わせて誘う 笹のかげより
雑 垣際の ぱつぱとはしゃぐ 霰かな
雑 鼓おどれや わが影法師
冬 ウス壁に ずんずと寒が 入りにけり
冬の月 月光に霜と 誰れが言ったか
冬 木枯らしや 菰に包んである 小家
雑 虫に知らせよ われ天寿きし
花 木枯らしや 木の葉にくるむ 塩肴
春 花見に乾杯の 夢を見た
【名残表 十二句】
春 わが家や 初つららさへ 煤じみる
雑 霞と騙さる 黄のとぶ春
雑 雨晴れや 蚊帳のうちなる 朝たばこ
雑 もう一服と 出れぬ塵灰
冬 寒いぞよ 軒のひぐらし 唐がらし
冬 枯れて吊らるる 夏の思ひ出
雑 稲妻や 芒がくれの 五十顔
恋 恐ろしくもあり 恋しくもあり
恋 寝むしろや 野分に吹かす 足のうち
雑 曽根崎はまた 下衆の心中
秋の月 星様の ささやき給ふ けしきかな
秋 賀茂川並ふ 影はひとつに
【名残裏 六句】
秋 御仏の 代わりにおぶさる 蜻蛉かな
雑 地蔵が羽の どこへ連れさる
冬の月 三ヶ月は そるぞ 寒さは冴えかへる
冬 星の草刈る 冬がしんしん
花 追分の 一里手前の 秋の暮れ
春 また春にねと 花が手をふり
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
