一茶両吟 卌漆ノ巻 (47)
【表六句】
夏 凉さよ 手まり程なる 雲の峰
夏 つれゆきてなほ 鳴く蝉しぐれ
夏 夕顔の かのこ斑の 在所かな
雑 うたれた母の 面影と咲き
秋の月 夕顔の 花で洟かむ 娘かな
秋 月の影射る 小手の懐かし
【裏十二句】
秋 いざいなん 江戸は凉みも むつかしき
恋 から恋の音の 胸に響かじ
恋 夜に入れば せい出してわく 清水かな
雑 待ち遠しかろ 筑波のことこと
雑 蝉鳴くや 赤い木葉の はらはらと
雑 もう長くなく ゆく子規
冬の月 涼風に 月をもそへて 五文かな
冬 浮かぶは鴨か ゆるる異国の
雑 空山に 蚤をひねって 夕すずみ
雑 たそがらるれば 我も仙人
花 さくさくと 飯くふ上を とぶ蛍
春 わっぱ覗けば 春が安かろ
【名残表 十二句】
春の月 三ヶ月と そりがあふやら 時鳥
雑 春ゆめゆめの 落とした命
雑 行け蛍 手のなる方へ なる方へ
雑 按摩いかがと 笛なる方へ
夏 むく犬や 蝉鳴く方へ 口を明く
夏 暑苦しきは お前が先と
雑 念仏に 拍子のつきし 一葉かな
恋 大宰と流るる 梅の恋しき
恋 精霊に とられてしまふ 寝床かな
雑 身を失ひて どこ行くわれは
秋の月 三ヶ月の 細き際より 一葉かな
秋 萩にまぎれぬ 蟋蟀の秋
【名残裏 六句】
秋 露おりて 四条はもとの 河原かな
雑 ざわざわ行くは どこの訛りや
秋 木槿さくや 親代々の 細けぶり
雑 彼岸に恋し あの顔と顔
秋 凉しさは 露の大玉 小玉かな
春 まだま少しと 惜しからむ春
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
