『週刊 ゆきおとこ』 第85号
第 85号 2026/8/17 刊 ▲ 雪男の記事一覧
― ロセッティ 『突然』 より
ここに来たことがある
だが はっきりしない
扉の向こうの草地
甘く むせるような薫り
囁くそよ風
対岸の灯の煌めき
■ 連載夜話 ― 『ジェットドリーム』
~ 南の風になって
【あなたのオープニング】
オープニング曲 :「ミスター・ロンリー」 by フランク・プゥルセル
今日という一日の最後を飛び立って
今では あの街の喧騒も はるか雲の下へと置いてきました
遠く なつかしく見える灯は さて いつの記憶のものでしょう
今宵の空のスチュワードは
旅路をしずかに見守る月の明かりと
そして 星々はさらに雲海に煌めいて
この夜間飛行を 安らかに導いてくれています
最高の夜に あなただけのジェット気流に乗って
あこがれの旅へとテイクオフ
今夜のフライトのお供をするのは
パイロットの ○○○(あなた)
そして 不思議の国の王子たちが
旅先のご案内役をつとめてまいります
【メイコン】
フロリダに接するアメリカ南東部の街 ジョージア州メイコン
大きな街ではありませんが
ピエモント公園の南 大ワニが這い出してきそうな
自然ゆたかなカントリーです
バス釣り? ディア・ハンター?
ここでは いかにも自然の上に
人類の営みが構築されていることを目にすることができます
その人間の町は まるで
自然の森に いつの間にか生えたキノコのようでもあります
そんな裸足の街は
オクマルギー川の冷たい水に洗われ 都会の泥を落とします
また メイコンは ブルース・ロックの発祥の地でもあります
かつての オールマン・ブラザース・バンドや リトル・リチャード
オーティス・レデングまでもが 出身者として名を連ねています
グレッグ・オールマンは
『メイコンに帰ろう』 というライブアルバムを残して
この世を去りました
また オールマン・ブラザーズ・バンド博物館では
グレッグのオルガンや デュアン ベッツのギターなどに出会えます
ここは まさに サザン・ロックの聖地といったところです
【今夜のアルバム】

Gregg Allman - Vocals, Organ, Acoustic Guitar
Scott Boyer - E.Guitar, A.Guitar, Steel Guitar, E.Piano
Tommy Talton - E.Guitar, A.Guitar, Slide Guitar, Dobro, Tambourine –
Bill Stewart - Drums
Charlie Hayward, David Brown, Johnny Sandlin - Bass
Buzzy Feiten, Jimmy Nalls - Electric Guitar
David Newman - Saxophone
Chuck Leavell - Piano, Vibraphone
Butch Trucks - Cabasa
Paul Hornsby - Clavinet, Organ
Jaimoe - Congas
Backing Vocals – Albert Robinson, Carl Hall, Eileen Gilbert, Emily Houston, Helene Miles*, Hilda Harris, June McGruder, Lynda November, Maeretha Stewart
Midnight Rider
真っ暗なハイウェイ
ぽつんと揺れているのは オレのバイクの白いライトだけ
月もなく 星も流れない空は どこまでも底なしに黒い
ヘリテイジ・ソフテイルの重厚なエンジン音さえも
その底なしの闇に吸い込まれていき
この空間には 裸の自分しかいないと錯覚する
ときどき 死んだアニキや
幼馴染みが 俺のバイクを追い越して行く気がした
彼等は一瞬 オレに合図を送り
懐かしい匂いを鼻孔の奥に残して そして眩暈のうちにかききえる
幻に出会う そんな夜に
オレは いったい何処へ向かっているのかが思い出せない
ただ 黒い底に向かって 一本の道が続いているのだけが分かった
Queen Of Hearts
最後に引いたのは たしかに ハートのクイーンだった
ハートのロイヤス・ストレート
―― 19回目のオレのレイズのはずだった
店中の注目を浴びながら
俺は その店で一番上等のバーボンをかっくらい そして
皆に 幸運というものを振舞ってやった
四日連続 俺の名前は もはやここの市長よりも有名になっていた
オレはみんなのヒーローだった
―― たった一人をのぞいて
そいつに ご機嫌な気分を後ろからドンと突かれた瞬間に
オレの耳から音が消えて
店は スローモーションのビデオの中に ひっくり返った
Please Call Home
遠くに 恋人の家の明かりがみえる
そしてきっと あの明かりの中には
小さな弟らと一緒の彼女がいる
はっきりと覚えているさ
風見鶏の屋根も スプリンクラーの霧に輝く上品な庭も
でも オレは 彼女の電話番号が思い出せない それに
彼女の名前も だ
どうしたんだろう?
こんなにも 懐かしい気持ちに溢れているというのに
涙が流れた
もう 彼女に伝えるすべがないなんて
Don't Mess Up A Good Thing
いまさらだが
チャンスは 取り逃さないことだ
それを忘れると
手をすべらせて 取返しのつかない所に落ちてしまう
あるいは 自分だけが払い落とされて
秋の虫のように ただ六脚が空を蹴って もがいているだけかも
だから 手に入れた幸運は大事にしろよ
握ったチャンスは 勲章になるが
逃したチャンスは 墓石の落書きにしかならない
These Days
気が付けば
釣りをした古池のはじで オレが オレを眺めている
知った顔や 忘れてしまった顔
でもみんな 白い歯で何かを交換していた夜のこと
ずっと昔に飼っていた犬が 俺の膝をなめて 尻尾をふる
アニキの背中にしがみつきながら聞いた 風の音
母親が出ていった日のこと
父親に殴られた理由 とか
色んなオレの出来事が 全部がいっぺんに 夜空から落ちてきた
Multi-Colored Lady
さて
見知らぬ裸の女が オレの目の前で踊っている
黒い肌は いつの間にか赤くなり
やがて 青 緑 黄色 金色に変化する
ただのライティングかって?
いいや ここはストリップ小屋なんかじゃない
俺と彼女だけの 広い荒野のど真ん中
空はどこまでも快晴 ダリの絵のような地平線と
光の草原が 風ではない何かに そよいでいる
女の顔は どこかで会ったような
忘れた女のような
オレを捨てた母親のような
あるいは 自分の娘かも
でも どれが 誰だかなんて どうでも良くなった
必要なのは そいつとオレとの接点だけだった
― 役割なんて あとから付いてくる
All My Friends
友よ
オレはもう 君たちの名前が思い出せない
友よ
オレはもう 君たちの記憶から消えて無くなるだろう
でも 一緒に歌ったクラブの天井や
いたずらに駆けた学校帰りの小屋の影から
オレは 昔をのぞき見している
声は出ないかもしれないが ポンと君たちの肩をたたいてから いくよ
Will The Circle Be Unbroken
さて
オレの頭にも 光の輪がのせられて 体が軽くなる
まるで 雲になったかのように
懐かしい町が どんどんと 小さくなっていくよ
そして町は とうとう 思い出せないくらいに小さくなった
ひょっとして この光の輪が壊れたなら
オレは 真っ逆さまに あの町に落ちて行って そして
ふたたび 皆と出会えるのだろうか
それとも 落ちた先は オレのぜんぜん知らない よそ者の町だろうか
そんな事を考えながら
オレというヤツは 星になった
【あなたのエンディング】
エンディング曲 :「夜間飛行」 by レーモンド・ルフェーブル
さて 夜は
すっかり 夢の中へと溶け込んでいきます
遠くに聞こえた歌は 幻でしょうか
それとも 明日の予告編でしょうか
そんな素敵な物語が きっと
あなただけの旅の始まりとともに 扉を開けて待っています
さあ あともう少し
不思議のつづきを あなた自身の夢の中で
今夜 お送りしたアルバムは
グレッグ・オールマンで 『レイド・バック』
フライトのお供をいたしましたパイロットは
わたくし ○○○ でした
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