一茶両吟 卆漆ノ巻 (97)
【表六句】
夏 家なしが へらず口きく 凉みかな
夏 身を失ひしこそ 悲しかれ
春 踊りから すぐに朝 草かりにけり
雑 若きこととは 眠らぬことかな
秋 松の木に 馬を縛って 相撲かな
秋の月 やめてくれよと 月がいななく
【裏十二句】
秋 門の月 暑さがへれば 友もへる
恋 かぐやの事も きく耳はへし
恋 朝顔の 上から取るや 金山寺
雑 初女房の 味噌汁の湯気
雑 まりそれて ふと見つけたる 雲雀かな
雑 雲居で母が さわぐ夏空
夏 朝顔や 吹き倒された なりでさく
夏 足腰立たねど 色はまだまだ
雑 汁の実の 足しに咲きけり 菊の花
雑 薬味多さの よる年波や
花 蘭の香や 異国のやうに 三ケの月
春 まどふ都の 春は欠けゆく
【名残表 十二句】
夏 しなのぢや 山の上にも 田植笠
雑 雲のまにまに 牛追ひ童
雑 山の町 どつどつ露の 流れけり
雑 鬼の泪と 狸の太陽
夏 膝の子や 線香花火に 手をたたく
夏 お爺のことも 去年の盆なり
雑 夕陰の 尻にしかるる 扇かな
恋 風流わすれた 恋もあるやも
秋 初茸を 握りつぶして 笑ふ子よ
雑 力強さは そのままにあれ
秋の月 有り合いの 山ですますや けふの月
雑 捨てる姨あり 拾う姨はなし
【名残裏 六句】
秋の月 深川や 蠣がら山の 秋の月
雑 棄てられし歌は しゃれこうべかな
花 花吹雪 泥わらんぢで 通りけり
雑 働きつくして われも散るらん
秋 三味線で 鴫を立たする 潮来かな
春 こいよ春よと 水うつす顔
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
