一茶両吟 卆ノ巻 (90)
【表六句】
秋 一念仏 申す程しく 芒かな
秋の月 月に冴えるは 虫が経なり
秋 膝抱いて 羅漢顔して 秋の暮れ
雑 苔にむしても 阿に近からず
秋の月 人顔は 月より先へ 欠けにけり
雑 鬼が団子と 喰う一夜かな
【裏十二句】
雑 春日野や 駄菓子に混じる 鹿の糞
恋 若草薫って ともに駆けらん
秋の月 酒尽きて 真の座につく 月見かな
恋 雲にかくれた もちが二つき
雑 夕霧や 馬の覚えし 橋の穴
雑 またいで行けよ 人のたくらみ
夏 三間の 木太刀をかつぐ 袷かな
雑 トンビ集める あれ大山よ
雑 子を負うて 川越す旅や 一しぐれ
雑 焼かれた山を 泣くましらかな
花 冬枯れや 神馬の漆 はげて立つ
春 きく人のなき 春の嘶き
【名残表 十二句】
秋 鶺鴒が たたいて見たる 南瓜かな
雑 虫食ふはどち 坊主の頭
雑 扇にて 尺を取りたる 牡丹かな
雑 殿が自慢は ただ大きうて
秋 蟋蟀の とぶや唐箕の ほこり先
雑 屑にまみれも 命歌えや
雑 鍬さげて 神農顔や きくの花
恋 野良さがしゆく 恋の妙薬
恋 はつ雁も 泊まるや恋の 軽井沢
雑 明けくる空の 夜にみじかし
秋 小便所 ここと馬呼ぶ 夜寒かな
雑 尻尾とゆらす さいごのしずく
【名残裏 六句】
秋 秋風や 磁石にあてる 古郷かな
雑 吸い寄せられて 雲はゆきゆき
雑 さをしかや えいしてなめる けさの霜
雑 修験の岩の 苔ぞ神々
秋 首出して 稲つけ馬の 通りけり
春 餅花の春の 夢ごこちかな
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
