一茶両吟 廿肆ノ巻 (24)
【表六句】
春の月 寺山や 春の月夜の 連歌道
春 面影に発つ 石の陰より
春 落柿舎の 奈良茶日つづく 木の芽かな
雑 柿の葉つつむ 侘び寂び酢めし
秋 昼ごろや ほろほろ雉の 里歩き
秋 蛇がおびえて たたく裏口
【裏十二句】
秋 山蔭も 畠となりて なく雉子
恋 夫よぶ声も 虫食いとなり
恋 かつしかや 雪隠の中も 春のてふ
雑 恋は盲に 華は香ぐはし
雑 春雨や 窓も一人に 一つずつ
雑 ながめの空に うつす瞼の
春 人寄せぬ 桜咲きけり 城の山
春の月 幽き声の 春月霞みて
雑 げつそりと 雁はへりけり よしづ茶屋
雑 高ねの当に 安からう酒
花 春がすみ 鍬とらぬ身の もつたいな
春 ほるは吉野の 葛と思へば
【名残表 十二句】
春 穀つぶし 桜の下に くらしけり
雑 来世毛虫と 告がる身なれば
雑 菜の花に うしろ下がりの 住居かな
雑 蝶よ花よの 働き者よ
冬 春の風 艸にも酒を 吞ますべし
冬 雪解け汲んで 其角さかずき
雑 陽炎や 寝たいほど寝し 昼の鐘
恋 また白皙に にこ毛まぎれぬ
恋 時鳥 火宅の人を 笑うらん
雑 入れ喰う穴や 吉原新地
秋の月 かんこ鳥 信濃の桜 咲きにけり
秋 冬待ちびとの 忘れられしも
【名残裏 六句】
秋 今しがた 此の世に出でし 蠅の鳴く
雑 おそかる骨の 恩を嘆かね
雑 どの星の 下が我家ぞ 秋の風
雑 嗤ふ夜伽の 流るるあれよ
花 蠅うちて 今日も聞くなり 山の鐘
春 死して春なり 虫も桜も
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
