一茶両吟 父ノ巻 (80)
【表六句】
冬 故郷は かすんで雪の 降りにけり
冬 格子格子に うかぶ父母
雑 雪解けや 貧乏町の 痩せ子たち
雑 もう戻れんよ 飛び出した穴
春の月 月ちらり 鶯ちらり 夜は明けぬ
春 春暁まよふ 桜がつづき
【裏十二句】
冬 餅つきに 女だてらの 股火かな
恋 われ伊邪那岐に 恋もするらん
恋 春風や 逢坂こゆる 女講
雑 おちた椿ぞ 誰も拾わね
雑 梅が香や おくに一組 わらぢ客
雑 知らぬが仏 オクナイサマよ
夏の月 朝不二や 屠蘇の銚子の 口の先
夏 月に呑まれて 盃に浮き
新春 かつしかや 川むかふから 御慶いふ
雑 今生わかるる 鬼と借金
花 逃げしなや 水祝はるる 五十婿
春 舞ひて喜ぶ 胡蝶の春く
【名残表 十二句】
新春 つく羽を 犬がくはへて 参りけり
雑 遊ぶ相手は 姉さんの雲
雑 どんど焼き どんどん雪の 降りにけり
雑 火の粉と舞うや 成仏のどん
冬 小庇に 薪並べおく 雪解かな
冬 まう焚かれずや 釜の煙も
雑 ちる花や お市小袖の 裾ではく
恋 坊主恋しと 豆腐よぶ笛
恋 温石の さめぬうちなり 若菜つみ
雑 ひと夜の春の 塒あとかな
秋の月 花を折る 拍子にとれし しやくりかな
秋 臥猪の床に 寝待の盃
【名残裏 六句】
秋 つくばねの 下る際なり 三ヶの月
雑 射ぬかし雁の 恋のゆくへは
雑 かはほりや 四十島田も 衣替え
雑 さがすは美男の 月影ばかり
花 加賀どのの 御先をついと 雉かな
春 春野ほろろの つづけよ雛よ
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
