一茶両吟 丗捌ノ巻 (38)
【表六句】
冬 はつ雪を いまいましいと 夕べかな
冬 かへす道なし 宿もわすれりて
雑 わらの火の へらへら雪は 降りにけり
雑 けぶり昇りて われを見おろす
秋の月 はつ雪や それは世にある 人の事
秋 ひのき月下に わかるる秋かな
【裏十二句】
秋 煤はきや 火の気も見えぬ 見世女郎
恋 浮かぶ影さへ けふの浮橋
恋 玉霰 夜タカは月に 帰るめり
雑 笹かくす尻や うたれて悲し
雑 ゆくとしや 空の名残を 守谷まで
雑 つく鐘かぞふ 老いの石坂
春 我が春も 上々吉よ 梅の花
春の月 そでに乱るる 月かげ香り
雑 物売りを 梅から呼ぶや 下屋敷
雑 うぐいす一つと 花は言ふけど
花 蓬莱に 南無南無といふ 童かな
春 団子ひとつに 春をわすれて
【名残表 十二句】
新春 壁の穴や わが初空も うつくしき
雑 のぞく未来は 去年の背なれど
雑 初空の 色もさめけり 人のかほ
雑 閻魔わすれじ 餅百一文
春 けろりくわん として雁と 柳かな
春 日和にさそふ ひばり忘れぬ
雑 人の親 凧を跨いで 通りけり
恋 切れた糸さき わらは誰の子
恋 番町や 夕飯すぎの イカのぼり
雑 結んだ指に 上がり下がりて
秋の月 初空へ さし出す獅子の 頭かな
秋 金歯が齧る 秋の名月
【名残裏 六句】
秋 辻歌い 凧も上がって ゐたりけり
雑 祈りの先の 年を越せなば
雑 梅咲くや 平親王の 御月夜
雑 鬼火とならふ 首のいくつよ
花 三ヶ月や ふはりと梅に うぐいすが
春 渡り来んやも 香り誘はる
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
