見出し画像

『週刊 ゆきおとこ』 第61号

第 61号   2026/3/2 刊               ▲ 雪男の記事一覧



― リルケ  『薔薇よ 清らかなる矛盾よ』 より

 

 薔薇よ 清らかなる矛盾よ

 あまた瞼の下にて

 誰も眠れない よろこびよ 
 
  

■ 連載企画 ― 負けの神様

      ~ サクラ

 
サクラは高校3年生 大学受験の真っ最中だった 
でも ここまで受けた大学はことごとく落ちた 
その受験が最後だった
 とにかく田舎を出たくって
 最後は 動物育成科が頼みの門だった
 ちなみに 動物は大の苦手だったが 
数週間して
 一枚の不合格のはがきが 何の愛想もなく届いた 

 「 ヲワタ 」

親との約束どおり 家業の農家を継ぐことになった
 ちなみに 兄弟姉妹はいない 
親は半分喜んだが
 今時の農業収入なんて コンビニのアルバイト以下だから
 複雑な心境だった 
でも サクラの順応は早く
 畑仕事も 農協への出荷手際も
 もうすっかり ベテラン技だった 

一年後のこと
 最後に受けた動物学校が経営破綻した と新聞に小さく載っていた 
一方 家業の畑は その年は豊作で コンスタントに収入があった 

その冬の農閑期に
 都会へ出ていった高校の同級生に 会いに行った 
憧れていた都会の空気を吸いながら
 もう一人の自分を想像してみたが 何だか落ち着かなかった 

 「 やっぱ無理だわ 私には 」

夜 その友達に誘われて
 彼女のボーイフレンドとその仲間らと食事をした 
そのあと
 二次会で親しくなった ちょっとイケメンな男の子とメアドを交換した 
「 こんど遊びにおいでよ 」と
 田舎ネタな笑い話をいっぱいして別れたが
 メールは一通も来なかった 

その後の友達の話では
 その男の子は
 ヤクザに追いかけられて 行方不明になったそうだ 

サクラもやがて三十路に近づいたころ
 婿養子の見合い話が来た 
見合い写真をみると 若いのか年寄なのか分からず
 頭には もう毛がなかった 
10代のころからの夢がまた一つ
 ガラガラと音を立てて崩壊した 
でも 一晩考えて サクラは結婚することにした 
両親は 婿養子を どこぞの国の王子様のように迎えた 
レイドバックした田舎式の素敵な結婚式をし
 すぐに 双子の男の子が生まれた 
サクラは 田んぼの端っこにあるお地蔵さんに
 双子と同じ前掛けをプレゼントした
 
 
 

ここから先は

5,727字

¥ 150

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?