一茶両吟 匆参ノ巻 (53)
【表六句】
夏 芭蕉翁の 脛をかじつて 夕涼み
夏 たたく命の 時世を詠まれ
春 子どもらが 団十郎する 団扇かな
雑 喧嘩のあとも 隈と思へば
秋の月 大涼み 無疵な夜も なかりけり
恋 玉藻をわける 望月の舟
【裏十二句】
秋 蚊いぶしも なぐさみになる ひとりかな
雑 蓮の葉もなし 狂ひおつらむ
恋 大の字に 寝て涼しさよ 淋しさよ
雑 風に消えぬる 閨の穴まで
雑 行くな蛍 都は夜も やかましき
雑 魔物うごめく 花とや蜜とや
秋 おとなしく 留守をしてゐろ きりぎりす
秋の月 月も雲して 聞く人のなし
雑 菫咲く 川をとび越す 美人かな
雑 蛙に生まれて 仙女の出逢ひ
花 蝉なくや 我が家も石に なるやうに
春 供えた菊の 春はすぎゆき
【名残表 十二句】
春 蚤の迹 それも若きは うつくしき
恋 赤にふれそふ 細指の白
夏 旅人や 山に腰掛けて ところてん
夏 夏すずむには 鬼の臍かな
雑 たのもしや 西紅の 雲の峰
雑 われも追ふまて 渡る雁がね
夏 麻の葉に 借銭書いて 流しけり
恋 とどかぬ恋の 天の河まで
恋 帷子を 真四角にぞ きたりけり
雑 太刀もとどかぬ 鎧のおいらん
夏 何事の ひと分別ぞ 蝸牛
秋 つぶる片目の 露とこぼれり
【名残裏 六句】
秋月 夕月や 大肌ぬいで かたつぶり
雑 のこした渦に 星が降る夜
雑 一尺の 滝も凉しや 心天
雑 呼び込む声の 一町さきまで
花 下下も下下 下下の下国の 涼しさよ
春 からんころんと 下駄の春ゆく
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
