一茶両吟 卌玖ノ巻 (49)
【表六句】
冬 木がらしや 鎌ゆひつけし 竿の先
冬 老いさらばへて 我が身かるかも
雑 有様は 寒いばかりぞ はつ時雨
雑 歌うる声の 霜る歳こし
秋 かけ金の 真っ赤に錆びて 寒さかな
秋 雁たずねしも あるじの去りて
【裏十二句】
冬の月 夕月や 御煤のすぎし 善光寺
恋 牛おき忘る まだ来ぬ人よ
恋 これがまあ 終の栖か 雪五尺
雑 途絶えてすぎる 恋の短かし
雑 ほちやほちやと 雪にくるまる 在所かな
雑 きつね色した 三兄弟や
冬 せき候や 七尺去って 小セキかな
雑 いずくに見たか 小僧が面かげ
雑 しなのぢの 山が荷になる 寒さかな
雑 地につくばふは あといく峠
花 納豆の 糸ひっぱって 遊びけり
春 毛虫の春は 華が迎へん
【名残表 十二句】
春 はつ雪や 俵のうへの 小行灯
雑 花とゆらるる 蛾の娘たち
雑 人並の 正月もせぬ しだらかな
雑 干支をたずねる 人も消ぬゆゑ
春 すりこ木の やうな歯茎も 花の春
雑 朝には咲かせよ そのすり鉢に
雑 かくれ家や 歯のない口で 福は内
恋 鬼の娘を 食らうた罰の
恋 浅艸の 不二を踏まへて 鳴く蛙
雑 権現様の 身請けぞ悲し
春の月 かすむやら 目が霞むやら ことしから
春 雲や月やと みまごふ春夜
【名残裏 六句】
春 かるた程 門の菜の花 咲きにけり
雑 のびる下句に 蝶が邪魔をし
雑 大凧や 上げ捨ててある 亦打山
雑 宮の笠なれ 明日は風ふく
花 垢爪や 薺の前も はづかしき
春 鈴と祓へば 若草が萌ゆ
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
