一茶両吟 匆肆ノ巻 (54)
【表六句】
夏 逃げるなり 紙魚が中にも 親よ子よ
夏 知らずと空なり 夏の財布もよ
夏 人来たら 蛙となれよ 冷やし瓜
雑 並べた王子の 次はどれから
秋の月 投げ出した 足の先なり 雲の峰
秋 玉と転がす 秋の名月
【裏十二句】
夏 宿かりに 鷗も来るか 川やしろ
恋 夏越しにゆらす 火もあらたかに
恋 川狩りや 地蔵のひざの 小脇差
雑 岩間にかくれん かけおちの滝
雑 鵜舟から 日暮れ広がる やうすかな
雑 菩薩すくふや 鮎の成仏
夏 蝉鳴くや 天にひっつく 筑摩川
夏の月 暑さも運べ 松風の月
雑 とうふ屋が来る 昼顔が咲きにけり
恋 ふるふ孀の 桶ひとつかな
花 一吹きの 風も身になる わが家かな
春 華はなくとも 春は来にけり
【名残表 十二句】
夏 蚤蝿に あなどられつつ けふも暮れぬ
雑 齧るにあらず わが骨の盆
雑 露ちるや むさいこの世に 用なしと
雑 ぬらした袖も 襤褸なりぬりて
夏の月 山里は 汁の中まで 名月ぞ
雑 芋ごろごろと 山姥わらふ
秋 うつくしや しゃうじの穴の 天の川
恋 われも虫音の 恋の長夜よ
秋 エイヤッと 活きた所が 秋の暮れ
雑 遺した歌が 虫の形見ぞ
秋の月 死神に より残されて 秋の暮れ
秋 つきなき夜に つき待つ我や
【名残裏 六句】
秋 両国の 両方ともに 夜寒かな
雑 空手拍子の 商売繁盛
雑 名月や 寝ながら拝む 体たらく
雑 餅や団子や 夢に丸まる
花 寝ねあまる 夜といふ年に いつか成りぬ
春 ぼらけて春の われも散るらん
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
