一茶両吟 交捌ノ巻 (68)
【表六句】
春 陽炎や 馬をほしたる 小松原
春 はむ若草の 歌を聞きつつ
夏 人の世の 銭にされけり 苔清水
雑 とくとく往けよ 言葉は涸れじ
春 筍の 運否天賦の 出所かな
春の月 のぞいた月の のれん早けど
【裏十二句】
秋 帷子を 雨が洗って くれにけり
恋 果てても妹の 声と聞きつつ
恋 早乙女の 尻につかへる 筑波かな
雑 雲にならべた 苗のうたうた
雑 妹が子や じくねた形りで よぶ蛍
雑 まどひし夏の 火に会ひたかろ
夏の月 涼しさや 笠へさかやき そり落とし
夏 見あぐる城は 天の月かげ
雑 藪陰や たつた一人の 田植唄
雑 となりの嫁ぞ おくないさまは
花 凉風を はやせば蛭を 降らせけり
春 柳の下にも 春を吸いたく
【名残表 十二句】
春 江戸入りや おめずおくせず 時鳥
雑 夜ふけに並ぶ 参勤交代
夏 大原や 小町が果ての 夏花つみ
恋 恋した人は うつりにけりな
夏 妻なしが 草を咲かせて 夕涼み
雑 鴉みつめる 地蔵ら背中
雑 猫の子が 蚤すりつける 榎かな
雑 戯れてなほ 転がる庭の
恋 蝿除けの 草を吊るして 又どこへ
雑 びりつき堕ちぬる 間の螽斯
秋の月 堂守が 茶菓子売るなり 木下闇
秋 葉っぱ喰はさる 狸の月見
【名残裏 六句】
秋 小坊主や 袂の中の 蝿の声
雑 菩薩と思へば 経と聞こへん
夏 暑き夜を にらみ合たり 鬼瓦
雑 東風にふかれて 烏の決闘
雑 凉風の 曲がりくねって 来たりけり
春 一になくとも 春は春なり
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
