一茶両吟 卌捌ノ巻 (48)
【表六句】
秋 泣く者を つれて行くとや 秋の風
秋の月 言い出せなくて わかる十六夜
秋 秋風や のらくら者の うしろ吹く
雑 押した背中の ぬける空かな
夏 老いたりな 瓢と我が 影法師
夏 ゆりゆられ行く 麦酒のはら
【裏十二句】
雑 有明や 浅間の霧が 膳をはふ
恋 鬼見て見ぬの 駆け落ちのあさ
恋 そば時や 月のしなのの 善光寺
雑 もうこれきりの 恋をさらしな
雑 有明や 露にまぶれし ちくま川
雑 天にて待てよ よみの人々
秋 けふからは 日本の雁ぞ 楽に寝よ
雑 まもる伽藍の 床はかたけど
秋 螽斯 せんきの虫も 鳴きにけり
秋の月 うつした宿の やすかろう月
秋 蟋蟀が 髭をかつぎて 鳴きにけり
花 乙女とおぼしき 草花のこゑ
【名残表 十二句】
春 雁鳴くや 霧の浅間へ 火を焚けと
雑 一夜を偲ぶ たつ人の笠
雑 露はらり はらり大事の うき世かな
雑 情といなく 馬のいばりの
夏 雁ごやごや おれが噂を いたすかな
夏 流れる星の うるさき夜よ
雑 夕月に 尻つんむけて 小田の雁
恋 かまはぬ夜の 灯は吹きけしぬ
恋 きりきり しゃんとして咲く 桔梗かな
雑 差した袖まで 一夜とにほへ
秋の月 かしましや 将軍様の 雁じやとて
秋 はずした羽の あとに清月
【名残裏 六句】
秋 ゆく秋や 入道どのの にらみ汐
雑 ひとり夕べに たれをまちけむ
雑 はつ時雨 酒屋の唄に 実が入りぬ
雑 ぬけ殻たちの 夜よはじけて
花 鶏頭の つくねんとして 時雨かな
春 あといく日かと 雛まつるまで
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
