『週刊 ゆきおとこ』 第80号
第 80号 2026/7/13 刊 ▲ 雪男の記事一覧
― ワーズワス 『修道院上流数マイル』 より
高く そそり立つ断崖
その 隔絶した自然の景色 そのままに
さらに 隔絶感を刻みつけ その風景を
空の静寂に結び合わせる そうして
いま ふたたび この地に憩う
■ 連載夜話 ― 『ジェットドリーム』
~ ハーレムにて
【あなたのオープニング】
オープニング曲 :「ミスター・ロンリー」 by フランク・プゥルセル
今日という一日の最後を飛び立って
今では あの街の喧騒も はるか雲の下へと置いてきました
遠く なつかしく見える灯は さて いつの記憶のものでしょう
今宵の空のスチュワードは
旅路をしずかに見守る月の明かりと
そして 星々はさらに雲海に煌めいて
この夜間飛行を 安らかに導いてくれています
最高の夜に あなただけのジェット気流に乗って
あこがれの旅へとテイクオフ
今夜のフライトのお供をするのは
パイロットの ○○○(あなた)
そして 不思議の国の王子たちが
旅先のご案内役をつとめてまいります
【ハーレム】
ニューヨーク セントラルパークの北側
アッパー・マンハッタンと呼ばれる地域は
1940年代 デュークエリントンが名を馳せたころから
ジャズ・ミュージシャンの間で 聖域視されてきました
しかし 今ではそれも 少々時代遅れな感があって
成功したミュージシャンや俳優などは
いち早く この街を卒業していきます
今はもう
セントラル・ハーレムだの ウェスト・ハーレムなどと
まるで かつてのモンマルトルのように
芸術家の家そのものが 観光名所化してしまった感があります
さてしかし いったん A列車に乗ってしまうと
ここではもう JAZZの魅力からは 途中下車できません
デューク・エリントン、ソニー・ロリンズ、バド・パウエル ...
彼等はもはや 今の時代には
忘れ去られようとしている才能ですが
その命が 華やかに輝いていた時代がありました
コットン・クラブや アポロ・シアターが並ぶ表通りから
一歩裏の路地に入れば
そこはやはり "彼等の町" です そして
簡単には よそ者を受け付けない あるいは
気を許してはくれないルールに迷い込みます
どうしても という要件の場合は
ここは "エージェント" の助けを借りたほうが良さそうです
【今夜のアルバム】

Bass – Wendell Marshall
Drums – Sonny Greer
Flugelhorn – Mercer Ellington
Piano – Billy Strayhorn, Duke Ellington
Saxophone – Jimmy Hamilton, Johnny Hodges, Paul Gonzales, Russel Procope
Trombone – Lawrence Brown, Quentin Jackson, Tyree Glenn
Trumpet – Andrew Ford, William Anderson, Harold Baker, Nelson Williams, Ray Nance
Vocals – Yvonne
recorded 1951, New York
Mood Indigo
摩天楼の谷間
見上げても ボロアパートの赤い壁がならぶばかり
それでも夜は
僅かなる人々の頭の上に 容赦なく降りて来て
ありきたりな作り笑顔で
「こんばんは」 と言っては
軒先にならぶ果実の頭を撫でてまわる
そんな 深い深いインディゴの帳から
街は いつまでも逃れられず
ああ 私も 私の孫たちも
この景色から 抜け出すことは 叶わないのだ と
閉じ込められた不運の底
絶望
諦めの横丁に 沈黙するしかない
酔っぱらった幸せ者
毎日泣くだけで済む子供と
昨日も 明日も 階段に座っているじいさん
こそ泥
スリ
ペテン師
ドラッグストア強盗に 車上荒らし
なんて 当たり前な
でも不思議と 喧嘩の起きない街
なぜなら ここは ハーレムだから
恋を売る女が 空っぽのハートで歌い出す
今夜も世界は 貴方のものよ と
Sophisticated Lady
いつの日にか 私こそが 世界一の上等な女になる
と 彼女はうたう
そして 彼女は そんな真似ごとに酔う
まるごとハリウッドな 三日月の下で
時たま 顔染みが からかって
よけいなつむじ風のように 横をすり抜けようとも
あるいは
昨日 ふってやった男が
ネズミのように下を向いて 他人のふりをしていても
「 嫌な事はみんな あのダストに放り込んでやったわ
これでもう 気をもむような事は なんにも残っていない 」
そして彼女は 一夜最後のベルベットの夢をみる
Mのゴミが吹き溜まった広場のすみに
いよいよ壊れかけたベンチ
女優の影を落とした老婆が いつまでも腰かけていた
いつまでも・・・
The Tattooed Bride
どの町にも クスリ屋 というのがいて
みんな 少々羽振りの良い暮らしをしている
ハロウィンなどには 仮装して 子供にお菓子をばらまいたり
特別でもない日にも ご機嫌なら
ストリートでバーベキューを振舞ってくれる
何もない町の ある意味 お祭り屋なのだ
そんなクスリ屋の若旦那が
ハーレムに不似合いな 真っ白なリムジンで
花嫁を運んで来た
白い車から 白い花嫁衣裳の 大き目な女が降りてきた
あらかじめ仕込まれた子供らが
新郎新婦に バラの花びらを振りかける
二人のあいだには
ゴッドファーザーの映画のシーンのような
ダマスクの香りが ムンとたちこめる
笑顔の ヒスパニック系ブライドの腕には
ワニを引き倒す女神が 彫られていた
Solitude
アニキや弟 それに 父親さえも
この町を出ていったきり 帰ってこない
母親には とっくに男ができていて
私には無関心
かといって 夜ごと 川の向こう側へ渡る気もしない
夕暮れ時
赤い谷の底を 小さな子らが走っていく
その一団のなかには
小さなスカートをゆらす 私もいた
ここでは
笑顔とは 少しずつ色あせていくものだ と
ハドソン川に沈む夕日が 教えてくれる
【あなたのエンディング】
エンディング曲 :「夜間飛行」 by レーモンド・ルフェーブル
さて 夜は
すっかり 夢の中へと溶け込んでいきます
遠くに聞こえた歌は 幻でしょうか
それとも 明日の予告編でしょうか
そんな素敵な物語が きっと
あなただけの旅の始まりとともに 扉を開けて待っています
さあ あともう少し
不思議のつづきを あなた自身の夢の中で
今夜 お送りしたアルバムは
デューク・エリントン楽団で 『マスターピーシーズ』
フライトのお供をいたしましたパイロットは
わたくし ○○○ でした
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