一茶両吟 捌ノ巻 (8)
【表六句】
夏 五月雨や 夜の山田の 人の声
夏 神楽なくとも 歌踊るらし
夏 汗拭いて 墓に物がたる 別れかな
雑 石ともいとし すゑつぐ子らに
雑 むく起きに 蚤はなちやる 川辺かな
秋の月 老月喰はれ 芒手をかき
【裏十二句】
秋 つくづくと 鴫我を見る 夕べかな
恋 恥ずかしくあり 瞼とじまつ
恋 きりぎりす 人したひよる 灯影かな
雑 初瀬の床も 鳴くやこの夜
雑 夕日影 町いっぱいの とんぼかな
雑 鐘がなるなり ひがし方から
冬の月 山は虹 いまだに湖水は 野分かな
冬 雪を滑りて 向かう靴下
春 ゆく春や 我を見たふす 古着買
雑 端ぎれの糸に 母の忘れじ
花 夏草や 立ちよる水は 金気水
春 春錆びてなほ 蝶は舞ふらん
【名残表 十二句】
夏 足元へ いつ来たりしよ カタツブリ
雑 実家わすれて 紫陽花ゆかた
雑 寐すがたの 蠅追うもけふが かぎりかな
雑 終わり慈父めの あと一日だに
雑 生き残る 我にかかるや 艸の露
雑 吾が骨の根に 玉と響かせ
雑 夜夜に かまけられたる 蚤蚊かな
恋 汗にすべるを 虫くわずとも
恋 父ありて 明けぼの見たし 青田原
雑 よき嫁迎ひ 若草吹きぬ
秋の月 門松や 独りし聞くは 夜の雨
秋 月の根曳きの 金子やいくら
【名残裏 六句】
秋 ゆふ暮れの 松見にくれば かへる雁
雑 われも連れゆけ あらたむ檜
雑 ちまちまと 住み住ましたり 梅わか菜
雑 気がねなき世の 一汁一菜
花 今少し たしなくもがな 菫草
春 宝の塚は 歌あふるらめ
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
