『週刊 ゆきおとこ』 第73号
第 73号 2026/5/25 刊 ▲ 雪男の記事一覧
― ヘリック 『水仙』 より
夏の通り雨
朝霧は真珠のようで
消えたら もう二度と見られない
■ 連載夜話 ― 『ジェットドリーム』
~ オーシャン大通り
【あなたのオープニング】
オープニング曲 :「ミスター・ロンリー」 by フランク・プゥルセル
今日という一日の最後を飛び立って
今では あの街の喧騒も はるか雲の下へと置いてきました
遠く なつかしく見える灯は さて いつの記憶のものでしょう
今宵の空のスチュワードは
旅路をしずかに見守る月の明かりと
そして 星々はさらに雲海に煌めいて
この夜間飛行を 安らかに導いてくれています
最高の夜に あなただけのジェット気流に乗って
あこがれの旅へとテイクオフ
今夜のフライトのお供をするのは
パイロットの ○○○(あなた)
そして 不思議の国の王子たちが
旅先のご案内役をつとめてまいります
【パームビーチ】
ニューヨークから3時間
大西洋から昇った太陽は 朝から 最高の笑顔で
あなたをお迎えする準備を整えています そして
パームビーチ国際空港に降り立った瞬間
バミューダの風が 少々手荒な歓迎をして
すべての煩わしさから あなたを解放してくれるでしょう
北は カナダ国境から
終点のフロリダ・キー・ウェストまで
― 南北 3,800km にもおよぶ Route 1 が
アメリカの東海岸の歴史を 今日も刻み込んでいます
その終点の地 フロリダ海岸線
アメリカ市民や
諸外国のセレブリティにとっての最高のリゾート地として
その名を誇る 青い海と 燦燦と降る太陽のひかり
ヘミングウェイが愛したキーウェスト
豪華な別荘や
コンドミニアムがならぶ 椰子の木のオーシャン通りまで
あるいは
キャノンボール・アダレイを生んだ メキシコ湾の町タンパ
さらには
ディズニー・リゾート ~ 娯楽の宝庫オーランド などなど
ここは あなたの休日を忙しくしてくれる フロリダです
【今夜のアルバム】

Eric Clapton - Guitar, Dobro, Vocals
Yvonne Elliman - Vocals, Guitar
Carl Radle - Bass
Albhy Galuten - Piano, Clavichord, Synthesizer, E.Piano
Jamie Oldaker - Drums, Percussion
George Terry - Guitar, Vocals
Dick Sims - Organ etc.
もう少し つづけてくれ
そうそう フロリダ・パームビーチの話
若いころ ここへは よく来たものだった
その頃のエネルギーは
どこからやって来たのだろうか と不思議に思う
毎日 その眩しい太陽の光に憧れて
夜遅くまで Jive を踊った
きっと あの頃の私は
暗いトンネルの中で
誰もあてにならず 手探りで進んでいたからだろう
そして その暗闇の中で 何もかもが嫌になった
虚構の街と
ペーパークラフトな人間たち
丘の上の 大きく陥没した ニセモノの城址
そんな世界から
すぐに抜け出すはずだった 長いトンネルの
その先には 眩しい光の楽園があるような気がしたんだ
Motherless Children
アクセルを踏むと そこはオーシャン大通り
この街には オープンカーがよく似合う
― 木目のクライスラー・コンパーチブル
どこまでもつづく 椰子の木
いわゆる金持ちの白い別荘が 風に飛ばされていく
ところ どころ 集まったスタンド
小さなショップは 赤さびたシャッター
四つに一つぐらいは 営業中
といっても そこじゃ タバコくらいしか買わないが
大きな赤いコークの看板
猥雑な落書き
誰かが蹴飛ばした靴のあと
壊れた自転車のわきでは
母親のいない子らが「組織」を作っていた
そいつらの親父といったら
子供の命を すぐにラム酒に換えてしまう
そして 子供らの命といったら
落として割れた酒瓶くらいの価値しかない
親父らは言い訳する
「ちょっと手が滑っただけさ
姉らが食事を持ってきてくれるが
彼女らがどんな仕事をしているかは 子供たちは知らない
Give Me Strength
そんな子供らにも ここの夕陽だけは格別だった
それはきっと 神様がくれた唯一の美しいものだった
だから子供らは 毎日夕暮れ時を待っていた
苦しい昼が早く終わってくれ と願いながら
そして神様に祈った
ボクたちに力をください と
Willie And The Hand Jive
子供たちは よく遊んだ ― 彼らには「団結」があった
誰かが泣いていれば 寄り添って 親身になって 肩を抱いた
誰かがヘマをやって 番号付きセルに閉じ込められたとしても
飼い主を忘れない犬のように おとなしく門の外で待っていてくれた
仲間はよく 手踊りをした
そう 「ネコの手踊り」というやつが流行った
誰かが一つパターンを踊る すると
それを真似て 次が踊るが 少しずつ変形していく
ときどき 難しい技を踊るやつがいる
でもたいていは
その次はゴマメで 技はたちまち崩壊する てわけ
そして彼らは今でも 「ネコの手踊り」をつづける
それは「団結の踊り」だった
Get Ready
でも 裏切りは いつでも起こるもの
握ったはずの手が ただの黒焦げたタイヤチューブだったなんて
胸がときめいた女の子が
ある日 髪を染めて 通りに立っているだなんて
一緒に走った自転車なんてものは 最初から壊れていたのだ
追いかけていたのは
寂しかった自分の背中だった と気づく
I Shot The Sheriff
一人の警官が 時折 子供らの店を見回りに来た
警官は 彼らを助けに来たわけではない
むしろ 半分以上が嫌がらせ
警官は とにかくトラッシュが嫌いだった なぜなら
自分も その出身だったから
警官は 子供を捕まえて 警棒で脇腹を小突いた
子供らが逃げ出すと
店のタバコと
少ない未来を一緒にポケットに突っ込んで 帰っていった
ある日 その警官が
路地裏のゴミ箱に 頭を突っ込んで眠っていた
それからというもの
店のタバコと未来が無くなることはなかった
I Can't Hold Out
子供らの店先の公衆電話
そこで毎晩 仕事を失った男が電話をしていた
「もう我慢できない」
と 毎日毎晩 叫んでいる
子供たちは その男の物まねをした
「もう我慢できない」
といって 受話器に似た棒切れを握り 振り回した
Please Be With Me
大通りの反対側 ヤシの木の下で
ヒゲの男が いつも ギターを弾いていた
彼も 誰かに向かって
「一緒にいてくれ」 と歌っていた
はじめのうち 相手は女かと思ったが
一緒に居て欲しいのは どうやら神様のよう
それが
子供たちが その大通りを渡ってはいけない理由だった
Let It Grow
海岸線の反対側には 赤茶けた山がつづく
子供たちは
あの山には 古くから幸せの木が植えられている
と 聞かされてきた
幸せは 誰かが植えないと始まらない そして
誰かが育てないと 誰の元へも花は咲かない と
子供たちは皆 幸せの木を信じた
そしていつか 大人になったら
あの山へ 幸せの木を一本植えに行く と誓った
Steady Rollin' Man
さて 今日もまた
そんな子供たちの店の前を
クールな女の子を乗せたオープンカーが 転がっていく
そうさ!
フロリダの空は 今日も青い!
Mainline Florida
そして もうすこし南にまで行けば 黒い犬がいるのだが
でも 私の記憶は このあたりで プッツリ途切れていた
私は そこで手放したのだ
この音楽を
【あなたのエンディング】
エンディング曲 :「夜間飛行」 by レーモンド・ルフェーブル
さて 夜は
すっかり 夢の中へと溶け込んでいきます
遠くに聞こえた歌は 幻でしょうか
それとも 明日の予告編でしょうか
そんな素敵な物語が きっと
あなただけの旅の始まりとともに 扉を開けて待っています
さあ あともう少し
不思議のつづきを あなた自身の夢の中で
今夜 お送りしたアルバムは
エリック・クラプトンで 『461オーシャン・ブールヴァード』
フライトのお供をいたしましたパイロットは
わたくし ○○○ でした
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