一茶両吟 父弐ノ巻 (82)
【表六句】
春 花ちるや とある木陰も 開帳仏
春 あとに牡丹の 慈悲馨り来し
春 鼻紙を 敷いて座れば 菫かな
雑 つぶした春の かなしみ一つ
秋の月 梅鉢の 大桃灯や かすみから
秋 殿のまえだと 狐が行列
【裏十二句】
秋 うす墨を 流した空や 時鳥
恋 来世に追うは 秋の雲かな
恋 百閒の 物見明けけり 時鳥
雑 雲に抱かれて 浮くは一会の
雑 春立つや 弥太郎改め 一茶坊
雑 ようやく知りぬ わが宿の名を
夏 水桶の 尻干す日なり 羽蟻とぶ
夏 緩緩と照るは 坊主のかげろう
春の月 花御堂 月も上らせ 給ひけり
雑 梯子もたせと ちどる住職
花 としとへば 片手出す子や 衣替え
春 両手でたらぬ わが袖の下
【名残表 十二句】
雑 手にとれば 歩きたくなる 扇かな
雑 十方ふんで 鬼ぞかためん
雑 蚤のあと かぞへながらに 添へ乳かな
雑 つなぐ命の よく眠れ今は
冬 ざぶざぶと 白壁洗ふ 若葉かな
冬 こせば消ぬらん 昨夏のあれこれ
雑 わか葉して 男日でりの 在所かな
恋 よる旅人の 骨までしゃぶれ
恋 小謡いの 尻べたたたく 扇かな
雑 鼓を打つは 狸か月か
夏 五月雨や 天水桶の かきつばた
雑 甍もあらへ 吹き流す鯉
【名残裏 六句】
夏 はつ蛍 ついとそれたる 手風かな
雑 よろめきたるは われが命や
雑 野の宮の 神酒どくりから 出る蚊かな
雑 朱に染まるには 陽の高からう
花 襟までも 白粉ぬりて 田植えかな
春 腰をかがめた 古すてかかし
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
