一茶両吟 父漆ノ巻 (87)
【表六句】
春 御仏や 寝てござっても 花と銭
春 ちんちろ呼ぶは 菩薩か巫女か
春 法の世や 蛇もすっかり 捨て衣
雑 生まれ変はりの 道成寺かな
夏 卯の花も ほろりほろりや 蟇の墓
雑 打たれて知るは 父の言の葉
【裏十二句】
秋 年寄りと 見るや鳴く蚊も 耳の際
恋 さも悪からん 冥土の留め女
夏 蚊もちらり ほらりこれから 老いが世ぞ
恋 行水のぞく やぶ河童あり
雑 馬までも 萌黄の蚊帳に 寝たりけり
雑 さびしき夜は 藁をもつかみつ
夏 笠の蝿 我ヨリ先へ かけ入りぬ
夏 もうあきあきぞ 夏の恋など
雑 時鳥 蝿虫めらも よつく聞け
雑 鬼がこわくば 銭もつてこい
夏 代かくや ふり返りつつ 子もち馬
雑 土手にひろげた 母が田作り
【名残表 十二句】
春 小座頭の あたまにかむる 扇かな
雑 桜舞ふよし 見上げる浄土
雑 線香の 火でたばこ吹く すずみかな
雑 吾も貸してけろと うかぶ人魂
夏 時鳥 鳴けや頭痛の 抜けるほど
雑 われ芋虫や もぐれよ布団
雑 蝉鳴くや つくづく赤い 風車
恋 おいた窓辺に 吹く風は孫
恋 花つむや 扇をちょいと ぼんの凹
雑 舞妓のしっぽ うつ鼓かな
秋の月 水風呂へ 流し込んだる 清水かな
秋 名月もらふ 天手力雄の手
【名残裏 六句】
夏 逃げてきて ため息つくか はつ蛍
雑 ぽつと燃えたは 鬼灯ふたつ
雑 戸口から 青水無月の 月夜かな
雑 寝ぼけ仔狸 家まちがうた
花 茶屋村の 一夜に出来し 花の山
春 人の心も 盛るが春なり
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
