一茶両吟 丗参ノ巻 (33)
【表六句】
夏 花びらに 舌打ちしたる 蛙かな
夏 落ちくる星と 夜を明かして
春 大江戸や 芸なし猿も 花の春
雑 ただ騒かしに 散る命かな
春 藪の梅 主なし状の さらさるる
雑 喰う虫もあり おつ青き実や
【裏十二句】
秋 蝶とんで わが身も塵の たぐひかな
恋 消えた一夜の 煙と忘る
恋 舞扇 猿の泪の かかるかな
雑 老いの切れ目と 綱は解かれど
冬の月 雪解けや 巣鴨あたりの うす月夜
冬 霜踏む足は 跡をのこさじ
雑 浅草や 家尻の不二も 鳴く雲雀
雑 星をかぞへて すだつ雛かな
雑 鳴く雲雀 水の心も すみきりぬ
雑 濁りし我の 空は消せじど
花 佐保姫の ばりやこぼして 咲く菫
春 入り変はる身の 色はムラサキ
【名残表 十二句】
春 雪解けを はやして行くや 外郎売り
雑 くさめひとつに 鬼わらふ春
雑 片隅に 烏かたまる 雪げかな
雑 門斎には 朝が早けれ
春の月 雪とけて クリクリしたる 月よかな
雑 狸の里に 鼓なるなり
雑 春雨や 魚追ひ逃がす 浦の犬
恋 別れた岬に 遠吠え聞こゆ
雑 藪入りや 墓の松かぜ うしろ吹く
雑 あやむ恋ぞと 止み声の消え
春 菜の花や 袖を苦にする 小傾城
秋 秋は九尾の 狐と振りやれ
【名残裏 六句】
秋 ちる花や すでに己も 下り坂
雑 しも終わらぬは 地獄が里なり
雑 花さくや 欲の浮世の 片隅に
雑 こらえた崖も うてなと思へば
花 夕ざくら けふも昔に なりにけり
春 あすは緑に ひとは忘らん
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
