一茶両吟 廿陸ノ巻 (26)
【表六句】
秋 艸花に 汁鍋けぶる 祭かな
秋の月 すいた腹にも 月はのぼるれ
秋 又人に かけ抜かれけり 秋の暮れ
雑 風の旅路の 他背の笈なし
秋 雁下りて ついと夜に入る 小家かな
雑 歌うともなし 酒も肴も
【裏十二句】
雑 うしろから 秋風吹くや もどり足
恋 別れた襟に 古女房の
恋 梅干と 皺くらべせん はつ時雨
雑 指さき去年の 枝を忘れじ
雑 鐘氷る 山をうしろに 寝たりけり
雑 石の頭に 笹子鳴くまで
冬の月 五十にして 冬籠りさへ ならぬなり
冬 皮ぞ踊れば 月や狸や
雑 もろもろの 愚者も月見る 十夜かな
雑 格子の先の 業につながれ
花 初霜や 茎の歯ぎれも 去年まで
春 菜花恋ひしと 春寝待ち草
【名残表 十二句】
春 飯の湯の うれしくなるや ちるみぞれ
雑 大根がゆの すする椀だに
雑 灯の洩れる 壁やみぞれの 降りどころ
雑 鼠のしごとや 中へ休まれ
冬 切り株の 茸かたまる 時雨かな
冬 今なき屋根の ぬくみ忘れじ
雑 春の風 垣の雑巾 かわくなり
恋 まだも少しと われはしめりて
恋 売り飯に 夕木枯らしの かかりけり
雑 ふた尻ならひ 肩はひとつに
秋の月 鰒さげて むさしの行くや 赤合羽
秋 よひ待ち月の 食わば皿まで
【名残裏 六句】
冬 能登殿の 矢先にかかる 霰かな
雑 箙つくとも 射ぬく気あらば
雑 そり立てて 少し春めく 垣ねかな
雑 小僧がまてぬ 雪はつむれど
花 かれ艸や 茶殻けぶりも なつかしき
春 霞みにうかぶ あれは桜か
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
