一茶両吟 せ弐ノ巻 (72)
【表六句】
夏 湯入衆の 頭かぞへる 小てふかな
夏 流してなんぼ 狸の背中
春 車座に 居直りて鳴く 蛙かな
雑 嫁入り先は 一夜に決まらず
秋 川霧の まくしかけたり 茶摘み唄
秋 秋冬えらぶ 渋もよからめ
【裏十二句】
春 春雨や 欠伸をうつる 門の犬
恋 借りた軒から 新米小唄
恋 凧あげて ゆるりとしたる 小村かな
雑 雲にとどけや 恋の糸ひき
雑 参詣の たばこにむせな 雀の子
雑 玉うつ母は 今が当たりぞ
冬の月 寝たいやら かぶりふりけり いかのぼり
冬 ぐずる背中に 照る月が唄
雑 うかれ猫 奇妙に焦れて 参りけり
雑 忘れられねや 碧き瞳の
花 白髪同士 春ををしむも ばからしや
春 花が散りても 悲しくもなく
【名残表 十二句】
春 花散るや 一開帳の 集め銭
雑 浄土の沙汰も 志と知る
雑 寝がてらや 咄がてらや 山をやく
雑 追われた虫が 今世のなれ
夏 痩せ蛙 負けるな一茶 是にあり
夏 隣に寝らば 初恋も消ゆ
雑 たのもしや てんつるてんの 初袷
恋 嫁とる日まで あとまうすこし
恋 ありたけの 蚊をふるひ出す 芒かな
雑 飛ばした数だけ 銭つれて来い
秋の月 つるべ竿 きよんとしてある わか葉かな
秋 あれ欲しかろう つる先の月
【名残裏 六句】
夏 立ちながら 綿引き抜いて 出たりけり
雑 逃げる足なし 案山子のはらわた
雑 蚊やりから 出現したり でかい月
雑 落ちる畳に 浄土が迎え
花 世の中の 花の盛りを 忌中札
春 弔い無用と 我が春は逝く
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
