一茶両吟 拾捌ノ巻 (18)
【表六句】
秋 わが星は 上総の空を うろつくか
雑 おちた川辺ぞ 生業となり
秋 うろたへな 寒くなるとて 赤蜻蛉
雑 場末のすゑの 暮れゆく四辻
夏 寐るほかに 分別はなし 花木槿
夏 去夏に枯らしぬ 酒甕のそこ
【裏十二句】
秋 秋の風 乞食はわれを 見くらぶる
恋 逃げた恋だけ やつに勝れり
雑 秋の雨 乳ばなれ馬の 関越ゆる
雑 若たつ都の せにまご乗せこい
雑 さはつても 時雨さうなり ちちぶ山
雑 雨宿りすや 観音菩薩
秋 つま先の 冷たしといふ 野分かな
秋の月 月はかくれて 風おす暖簾
秋 秋の夜や 隣をはじめ 知らぬ人
雑 酔へば更けすぐ 言葉いらずに
秋 越後節 蔵に聞こえて 秋の雨
春 さくらにひびく ひやおろす春
【名残表 十二句】
春 ほつほつと 痩せけいとうも 月夜かな
雑 めでる人なし ただ数ふ水
雑 朝顔や たぢろぎもせず 刀禰の水
雑 轟轟立ちて 命さからひ
秋の月 夕月や 流れ残りの きりぎりす
雑 来世も歌の 艸に狂はば
雑 深川の 家尻も見えて 朝寒き
恋 名残の島も こし色に閉じ
恋 一の湯は 錠の下りけり 鹿の鳴く
雑 隠して旅の 城崎のかな
秋 ほつほつと 馬の爪切る 野分かな
秋 次は菊花と 薫る明日は
【名残裏 六句】
秋 秋霧や あさぢを過ぎる 水戸肴
雑 名も残さずに 売られ消ぬらん
雑 樒さす 手からも霧は 立ちにけり
雑 なほ漂ひて 諌めのぼりぬ
花 痩せ山に ぱつと咲きけり 蕎麦の花
春 すすれば春の 味む小川に
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
